環境意識の高まりもあり、近年カーボンニュートラルという取り組みが大きな注目を集めています。企業はもちろん、これからの時代は個人であっても意識していく必要のある取り組みですが、その内容を正しく理解できているでしょうか。カーボンニュートラルとはどのような取り組みで、実現のためには何をする必要があるのか、また近年同じく注目を集めるワードであるSDGsとの関係についてまとめました。
カーボンニュートラルとは
カーボンニュートラルとは、「カーボン(炭素)」と「ニュートラル(中立)」の二つの言葉を合わせた造語です。炭素の量をもとの状態に戻す、つまり「温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」という取り組みを意味します。
カーボンニュートラルの特徴は、温室効果ガスを一切排出しないようにするのではなく「実質ゼロ」にするという点にあります。温室効果ガスの例としては、水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンなどがあげられますが、これらを一切排出しないよう生活することは簡単ではありません。電気を発電したりものを作ったりするために石油や石炭を消費すれば二酸化炭素が放出されます。もっと身近なところでは、冬に暖を取ったり、車に乗ったりすることでも二酸化炭素は排出されます。また、湿地や水田などで植物が分解されればメタンが発生するため、人間が何もしなくても、温室効果ガスは排出されるものなのです。
そのため、カーボンニュートラルの取り組みにおいては、人間の活動により排出された量から、人工的に除去したものや森林などの植物による吸収量を差し引き、実質的にプラスマイナスゼロにすることを目指します。
カーボンニュートラルを実現するために
カーボンニュートラルを実現するためには、国同士が手を取り合って温室効果ガスの削減に取り組んでいくことが重要です。カーボンニュートラルに向けた具体的な目標が国際的に提示・合意されたのは、2015年にフランス・パリで開催されたCOP21で成立した「パリ協定」が最初となります。パリ協定では「世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2度より十分低く抑え、1.5度に抑える努力する」ことを世界共通の目標として掲げ、先進国だけでなく開発途上国を含む全ての国に対して努力義務を求めました。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の試算によると、気温上昇を1.5度に抑えるためには、2050年までに温室効果ガスの排出量を、全世界で実質ゼロにする必要があるとされています。こうした動きを受け、現在では、世界中の国々が脱炭素社会の実現に向けた取り組みを進めています。
日本においては、2020年に菅元首相が第203回国会において所信表明演説を行い「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しています。
カーボンフリーについては、以下の記事でも詳しく説明しています。ぜひあわせてご確認ください。
※「#59」へのリンク入ります
カーボンニュートラルとSDGs
近年、メディアなどで大きく取り上げられている取り組みにSDGsがあります。このSDGsとカーボンニュートラルは、どのように関わっているのでしょうか。
SDGsの17の目標の中には、具体的にカーボンニュートラルの文字があるわけではありません。ただし、これらの目標は地球環境の保全と直接的、または間接的に関わっているものも多く、カーボンニュートラルを達成することが、結果としてSDGsの達成にもつながると言えるでしょう。
SDGsの目標の中でも、特に地球温暖化に関する項目である以下二つの項目は、カーボンニュートラルと深い関わりがあります。
目標07「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」
目標07の「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」とは、2030年までに世界中のすべての人々が安価で信頼性が高く、さらに持続可能で近代的なエネルギーサービスにアクセスできることを目指した目標です。
世界的に見ると、いつでも近代的なエネルギーサービスにアクセスできる環境は決して浸透しているとは言えません。特にアフリカやアジアの一部地域ではインフラの整備が不十分で、夜間の明かりにも不自由を強いられているケースもあります。こうした国々に対しては、早急にクリーンなエネルギーを供給するための技術や資本が求められています。
また、すでにエネルギーが普及している先進国は、従来の化石燃料由来のエネルギーではなく、よりクリーンで持続可能なエネルギーに変換していくことが必要です。太陽光やバイオマスなどのエネルギー利活用が普及すれば、エネルギーをよりクリーンなものに変換できるだけでなく、温室効果ガスの排出を削減し、カーボンニュートラルを実現することにもつながります。
目標13「気候変動に具体的な対策を」
目標13の「気候変動に具体的な対策を」とは、気候変動によって引き起こされるさまざまな自然災害を最小限にするために設定された目標です。
言うまでもなく、気候変動と地球温暖化は密接な関係があります。地球全体の温度が上昇することにより、砂漠化が進行したり、猛暑や豪雨などの異常気象が引き起こされたりしています。また、海水の熱膨張や大陸氷床の融解により海面水位が上昇したりするなど、地球環境にさまざまな影響が出ているのです。
気候変動が起こる具体的な要因は、自然の要因と人為的な要因の二つがあります。このうち人為的な要因の多くを占めるのが、人間が活動することで発生する二酸化炭素などの温室効果ガスや森林破壊によるものです。カーボンニュートラルの実現を目指し温室効果ガスの発生を抑えることで、目標の達成に大きく近づくことができるでしょう。
カーボンニュートラルを実現する方法
カーボンニュートラルはすでに世界中のすべての国が目指すべき目標として設定され、実現に向けてさまざまな取り組みが行われています。その代表的なものをご紹介しましょう。
再生可能エネルギーの割合を増やす
カーボンニュートラルを実現する取り組みとして、近年特に注目を集めているのは再生可能エネルギーを普及させる取り組みです。エネルギーを生み出すための燃料としては石油や石炭、天然ガスなどが頭に浮かびますが、これらはいずれも温室効果ガスを発生させるという問題があります。
こうした化石エネルギーに変わるものとして、近年普及が進められているのが太陽光や風力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーです。特に太陽光発電はマンションの屋上や家屋の屋根などにパネルを設置する人も多く、普及が広がっています。自家消費することで節電したり、発電した電気を電力会社に売って利益を得たりする仕組みが整備されたことで、多くの人にとって身近な存在になっています。
エネルギー消費量の削減
カーボンニュートラルを実現するためには、再生可能エネルギーを拡大するのと同時に、使用するエネルギーの総量を減らしていく取り組みも重要です。例えば、蛍光灯を消費電力の少ないLED照明に取り替えたり、エアコンの設定温度を低くしたり(夏場は高くする)といった省エネの取り組みは、その代表的な例と言えるでしょう。また最近では、メーカーで輸送効率の高いパッケージを開発したり、工場でヒートポンプを使用した廃熱回収を行うことでエネルギーを削減したりといった取り組みも行われています。
さらに、炭素の排出に価格を付けるカーボンプライシングという仕組みも生まれ、脱炭素社会に向けた動きが世界的に広がっています。
カーボンプライシングについては、以下の記事でも詳しく説明しています。ぜひあわせてご確認ください。
※「#47」へのリンク入ります
カーボンニュートラルは今後ますます注目を集めるワードに
SDGsは持続可能な社会を作っていくため国際社会全体が取り組みを進めている目標であり、カーボンニュートラルの実現はSDGsとも切り離せない関係にあります。実際にカーボンニュートラルの実現を目指すための取り組みが世界的に広がっています。今後ますます重要になるワードとして、しっかり理解しておきましょう。