アパートやマンションなど賃貸経営で大きなメリットとなるのが、土地にかかる固定資産税の軽減です。建物の使用目的が住宅であれば一定の範囲内で固定資産税が大きく下がるのです。しかも、固定資産税は確定申告で賃貸経営の経費として計上できます。固定資産税の仕組みや軽減措置の概要について、詳しくみていきましょう。
固定資産税の仕組みとは
固定資産税は市町村の固定資産課税台帳に登録された所有者に課せられる税金です。計算式や細かい内容はどうなっているのでしょうか。

計算式は「課税標準額×標準税率」
市町村が送ってくる納税通知書には、固定資産税評価額と課税標準額、税額などが記載されています。固定資産税評価額は総務大臣が定める固定資産評価基準に基づき、各市町村が個別に算定したものです。土地は実勢価格の約70%とされ、建物は同様の建物を新築したときにかかる費用を基礎に算定しています。3年に1回、市町村によって評価替えが行われます。
課税標準額は固定資産税額をはじき出す基になるもので、固定資産税評価額を基に算定されます。通常は固定資産税評価額と課税標準額が一致しますが、土地は住宅用地に固定資産税の軽減措置があるため、それを考慮しなければなりません。税額は「課税標準額×標準税率」の計算式で表されます。標準税率は1.4%です。
通知は1月1日現在の所有者に対して送付され、4月1日から翌年3月末まで1年分が請求されます。
賃貸の固定資産税は貸主負担
固定資産税を払うのは、1月1日現在で市町村の固定資産課税台帳に登録された所有者です。アパートやマンションなど賃貸物件であっても、負担するのは貸主のオーナーになります。オーナーにとっては負担になりますが、土地に設定された軽減措置の恩恵を受けることができます。
確定申告で経費計上が可能
オーナーにとってうれしいことがもう一つあります。不動産所得を確定申告する際に、固定資産税が必要経費として計上できるのです。法人税や所得税は収入から経費を除いた額で決まります。固定資産税が節税の役に立つわけです。
参考記事:「不動産所得の確定申告、節税効果を高める方法を解説」
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建物が住宅なら土地の課税標準額軽減
土地の固定資産税は建物が住宅であれば、大きく軽減されます。住宅用地には課税標準額の特例措置が設けられているからです。どのくらい軽減されるのか、詳しく解説します。

小規模住宅用地は6分の1に
住宅用地に認められている課税標準額の特例措置の一つが、小規模住宅用地の特例措置です。住宅用地で住戸1戸当たり200平方メートルまでの部分について課税標準額が6分の1に減額されます。
アパートやマンションなど賃貸住宅は「入居する住戸数×200平方メートル」が課税標準額の減額対象です。このため、戸建て住宅以上に大幅な固定資産税の軽減が可能になります。
一般住宅用地は3分の1
小規模住宅用地に入らない部分は一般住宅用地となりますが、これにも課税標準額を減額する特例が設けられています。小規模住宅用地に比べると減額幅が小さくなりますが、課税標準額を3分の1に抑えることが可能です。
ちなみに、小規模住宅用地、一般住宅用地とも都市計画税の課税標準額を減額できる特例措置が設定されています。課税標準額は小規模住宅用地で3分の1、一般住宅用地で3分の2になります。
新築住宅にも軽減措置が
新築住宅には固定資産税の減額措置が設けられています。期間は一般住宅で3年間、アパートやマンションなどは5年間、固定資産税が2分の1になります。良質な住宅の促進を目指して時限措置として設定されたもので、適用期限が2024年3月末まで延長されました。
長期間にわたって良好な住環境で生活できる長期優良住宅に認定された住宅には、固定資産税や所得税、登録免許税、不動産取得税の特例措置があります。このうち、アパートやマンションの固定資産税は7年間、2分の1に軽減されます。
参考記事:「マンション経営は儲かる?気になる収入と支出について解説」
参考記事:「アパート経営の基本!収益が出る仕組みや始め方、リスクなどを解説」
アパートの固定資産税をシミュレーション
それでは、実際にアパートの固定資産税をシミュレーションしてみましょう。
一括査定でアパートの相場を調査
まず、実勢価格を知らなければ、固定資産税評価額が分かりません。インターネット上で運営している一括査定サイトを使い、平均価格を割り出せば、あくまでざっくりとした数字ですが、おおよその実勢価格が出てきます。これに70%をかけて課税標準額を算出します。
計算式に当てはめ、固定資産税額算出
次に、「課税標準額×標準税率」の計算式に当てはめ、おおよその固定資産税額をはじき出します。
実勢価格が4,000万円のアパートで固定資産税を計算してみます。「4,000万円×0.7=2,800万円」となりました。これが課税標準額です。これに1.4%の標準税率をかけます。出てきた固定資産税額は39万2,000円です。おおよその額額ではありますが、固定資産税の目安が分かるのです。
太陽光発電に固定資産税がかかることも
アパートやマンションへの太陽光発電設置は今後、さらに進みそうです。入居者確保に強い味方となってくれそうですが、太陽光発電の場合、固定資産税はどうなるのでしょうか。
全量売電なら出力に関係なく課税対象に
太陽光発電の固定資産税は基本的に出力10キロワット未満の住宅用は非課税、10キロワット以上の産業用は課税対象とされます。ただし、全量を売電していれば、出力に関係なく固定資産税の課税対象になります。売電事業者とみなされるからです。
例えば、住居兼店舗として自宅で店舗を経営している場合や、自宅の部屋を賃貸用に利用しているケースなどは太陽光発電が産業用とみなされることがあります。
設置形態が課税、非課税の分かれ目に
住宅用太陽光発電の場合、設置形態が固定資産税の課税、非課税の分かれ目になります。住宅用設備として一般的な架台の上に取り付けるタイプは、設備の取り外しが可能であるとして固定資産税が非課税になることが多いようです。これに対し、屋根と一体型の設備は家屋に固定された資産として固定資産税が課税されます。
庭などの空き地に設置された設備は、出力10キロワット未満なら固定資産税が非課税、10キロワット以上が課税対象となります。
太陽光発電の計算方法は
出力10キロワットの太陽光発電を全量売電目的で設置したと仮定し、1年目の固定資産税を計算してみます。
太陽光発電は減価償却資産ですから、法定耐用年数で減価率が定められています。法定耐用年数17年の減価率は0.127と決まっていますが、1年目に限って0.064です。1年目の課税評価額は「購入額500万円×(1-0.064)」の計算式で表され、468万円となります。これに標準税率の1.4%をかけて出てきた固定資産税額が6万5,520円です。
2013年度までは課税評価額を3分の2に減額する特例措置がありましたが、優遇措置の見直しで打ち切られています。
軽減措置の有効活用で固定資産税減額を
アパートやマンションの経営をするうえで、固定資産税は経費計上できるとはいえ、負担になってくることに変わりありません。国が打ち出している軽減措置を有効活用し、減額させることも賃貸経営を安定させるための方策の一つです。また、太陽光発電をアパートやマンションに設置する場合、全量売電であれば固定資産税の課税対象となります。住宅用は設置形態によって異なります。不動産経営を始める際には、固定資産税のシミュレーションをしてみましょう。