地震や豪雨、台風などの災害発生時にしばしば、マンションの上層階が孤立することがあります。。停電でエレベーターが使用できなくなると、上層階に住む人たちが不便を強いられることになります。この事態を打開する対策のひとつが、居住者による太陽光発電と家庭用蓄電池の設置です。マンションのベランダに設置する場合は、小型のポータブルタイプになりますが、必要最小限の電力を手に入れることができます。
大災害でマンション上層階に孤立のおそれ
マンションは頑丈な建物で、災害時の避難所に指定されることもあります。しかし、大地震のような大きな災害で停電が発生すると、上層階が孤立するおそれがあります。そこで、復旧するまでの間を耐えしのぐカギとなるのが、太陽光発電と蓄電池です。
弱点は停電によるエレベーター停止
停電でエレベーターが停止すれば、移動手段が絶たれ高層マンションの上層階は孤立します。停電による孤立を避けるため、多くの分譲マンションでは非常用電力を備えています。しかし、老朽化したマンションの非常用電力は稼働時間が1日数時間程度しかありません。
2011年に発生した東日本大震災で非常用の稼働時間が問題になり、稼働時間を増やす対策が講じられましたが、防災対策の死角を突く出来事がありました。2019年の台風19号により、川崎市の武蔵小杉でタワーマンションの地下配電盤が水没し、停電したのです。マンションが抱える大きな弱点が、あらためて明らかになりました。
復旧まで持ちこたえる備えが必要
東日本大震災による停電発生時、東北電力管内の停電戸数300以上が、1週間までに40戸までに減少しました。そのため最低でも1週間ほど持ちこたえられるような備えが必要です。
内閣官房内閣広報室は大災害に備え、1週間分の水と食料、生活必需品を備蓄しておくよう呼びかけています。飲料水は家族1人当たり1日3リットルが目安ですが、トイレを流すなどの生活用水も別途必要です。ほかにも備蓄する例として、チョコレートやビスケット、乾パンなどの非常食とトイレットペーパー、カセットコンロ、ろうそくなどを挙げています。
蓄電池があれば孤立下で生活可能
災害時の停電に備えるために有効なのが蓄電池です。蓄電池は、最低限の照明やスマートフォンの電源として活用できます。4人家族世帯が1日に消費する電力量は約10キロワットアワー(10kWh)といわれています。家庭用蓄電池は5~7キロワットアワー程度の容量が一般的なことから、最低限の電力使用を心がければ数時間は持ちそうです。
しかし、停電が復旧する前に蓄電池の容量が尽きてしまうことも考えられます。そこで、必要になるのが小型のソーラーパネルです。日中にソーラーパネルで太陽光発電を行い、蓄電池に電気を補充しながら復旧を待つことができます。
→11_「マンション 防災」の記事へリンク
広がる導入のメリット
マンションに太陽光発電と蓄電池を設置するメリットは、災害対策になるだけではありません。災害時以外でも恩恵を期待できるのです。
平時は電気代節約が可能
太陽光発電の弱点は夜間に稼働できないことです。しかし、蓄電池と組み合わせると、昼間につくった電気を蓄電池にため、夜間に使うことができます。これなら日中は家を空けることが多い家庭でも電気代の節約が可能です。
蓄電池だけしか設置していない場合は、深夜時間帯の電気料金が安く設定された深夜電力のプランに切り替えることで、電気代を節約できます。深夜電力で蓄電池に電力をためて、それを日中に使用するわけです。例えば神奈川県の場合、容量4.1キロワットの蓄電池があれば、一般世帯の使用電力をほぼまかなえるとしています。
環境にやさしい暮らしを実践
蓄電池を利用すると、太陽光発電でつくった電気を無駄なく使い切ることができます。また、太陽光発電のメリットである売電時の送電ロスをなくせる結果、環境負荷の軽減が可能です。太陽光発電と蓄電池を併用することで、環境にやさしい暮らしを実践できるといえるでしょう。
容量7キロワットアワー、放電深度70パーセントの蓄電池を購入し、1日1サイクル利用したとしたら、年間365日で約1,800キロワットアワーの電力を消費する計算になります。年間に削減できる二酸化炭素量は約830キログラム。10年間使えば8.3トンとなり、約60本のスギを植樹するのと同じ程度の二酸化炭素削減効果を持ちます。
→16_「マンション 蓄電池」の記事へリンク
ベランダ導入時の注意点は
マンションの管理組合や大家さんが太陽光発電と蓄電池を設置した場合は、入居者にとってメリットがあります。しかし、入居者自身で太陽光発電や蓄電池を導入しようとする場合、現実的にはかなり難しいようです。一体、どうしてでしょうか。
騒音対策に万全の配慮を
マンション生活でもっともトラブルになりやすいのが騒音です。国土交通省の2018年度マンション総合調査によると、トラブルでもっとも多かったのは「居住者の行為やマナーをめぐるもの」で55.9%でしたが、その具体的内容でもっとも多かったのが「生活音」でした。
蓄電池は設置工事が必要で、設置後も稼働中に騒音を発生させます。近隣世帯に十分な説明をし、同意を得ておかなければ、ご近所トラブルに発展する可能性があるのです。
賃貸の問題は原状回復
賃貸マンションの場合、退去時の原状回復が大きな問題になります。蓄電池の設置には工事で壁に穴を開ける必要があり、この穴を退去時にふさいで元通りにする義務が発生するのです。
原状回復のための工事費には高額な費用がかかるのが一般的です。太陽光発電と蓄電池の設置が電気代節約につながるといっても、あとの工事費用を考えると割に合わないことも考えられます。
管理組合や大家さんの同意が必要
ベランダやバルコニーは部屋の付属物のように見えますが、法律上はマンションの共用部分に該当します。入居者は専用使用権を持つだけです。入居者が手配して太陽光発電と蓄電池をベランダに設置する工事を行う場合は、マンション管理組合や大家さんの承諾を得なければなりません。
分譲マンションの場合、管理規約や使用細則で工作物設置の禁止を定めていることが多いのです。許可を得るためには、規約や細則の変更が必要になる場合もあります。ほかにも消防法の規制などもあり、入居者による設置はかなり難しいのが実情です。
パネル付きポータブル蓄電池とは
最近は入居者が設置できる蓄電池が登場しています。ソーラーパネル付きポータブル蓄電池です。どんなものなのでしょう。
ベランダに設置するタイプが登場
ソーラーパネル付きポータブル蓄電池は、ポータブル電源と小型のソーラーパネルがセットになった製品です。持ち運びが可能で、ベランダへ設置する際に下層階へ落下などの心配がなければ、トラブルに発展する可能性は低いといえます。
パネルの出力や蓄電池の容量で価格がさまざまですが、比較サイトで検索してみると、1万円台から商品が並んでいます。
必要最小限の電力が入手可能
ポータブルタイプなので、一般的な家庭用蓄電池に比べ、容量が小さくなります。必要最小限の電力しか確保できませんが、災害時の非常用電力ならどうにかなりそうです。
注意点はソーラーパネルに影ができないように、日光が当たる場所に置くことです。影ができると晴天の日でも極端に発電量が落ちてしまいます。
太陽光発電と蓄電池を非常時対策に
大都市圏では、戸建て住宅よりマンションが多数派になりました。大規模災害が頻発する時代のいま、マンション上層階の孤立はいつ起きるか予測がつきません。ベランダに太陽光発電と蓄電池を置き、非常時に備えることの検討価値は大いにありそうです。