商業ビルや公共施設、福祉施設などに設置される蓄電池設備は、電気代の節約につながり、停電時の非常用電力として活用できる優れものです。マンションやアパートなど集合住宅でも大いに力を発揮してくれるでしょう。しかし、安全に利用するためには、消防法など関係法令の規定に従わなければなりません。どのような点に注意すればいいのか、まとめてみました。
停電リスク、高水準に
蓄電池設備が求められる背景には、停電リスクが高まっていることが挙げられます。最近のニュースから停電リスクを高めている原因を見てみましょう。
頻発する大規模災害
国土交通省によると、日本は国土面積が世界の0.25%でしかないのに、地震の発生回数は18.5%を占めています。国土が地震・火山活動の活発な環太平洋変動帯に位置するからです。世界で確認されている約1,500の活火山のうち、約1割が日本に集中しているのです。
地球温暖化の影響とみられる大雨の回数も増えています。1日当たりの降水量が200ミリを超す年間日数を1901~1930年、1990~2019年で比較すると、1990~2019年が1.7倍も多いのです。地震や大雨が多ければ、停電リスクは高まります。
北海道ではブラックアウト
2018年に北海道胆振地方を襲った最大震度7の胆振東部地震は、国内で初めてとなるブラックアウト(エリア全域に及ぶ大規模停電)を引き起こしました。電力大手の北海道電力管内全域に当たる北海道すべてが停電したのです。
政府の電力広域的運営推進機関が検証した結果、北海道厚真町の苫東厚真火力発電所や水力、風力発電所が地震の影響で停止し、需要と供給のバランスが崩れたためと分かりました。
世界的な燃料不足も影響
世界的な燃料不足が停電リスクを高めかねない事態を招いています。世界各国は温暖化防止のため、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を進めています。しかし、転換はすぐに実現できるものでありません。このため、化石燃料のなかで二酸化炭素排出が最も少ない天然ガスの需要が高まっていたのです。
10億人を超す巨大人口を抱える中国やインドが経済発展で化石燃料を大量に輸入するようになったところへ、ウクライナ戦争が始まりました。ウクライナを侵略するロシアは世界一の天然ガス輸出国です。需要の増大に比べ、供給量が低下して各国の停電リスクを高める結果になっています。
蓄電池設備とは
蓄電池設備は防災用蓄電池とも呼ばれる直流電源装置です。非常用照明や受変電設備制御のバックアップ電源として使用されています。蓄電池設備の基礎を見ていきます。
多様な蓄電池の種類
電池といっても多様な種類があります。最初に分けられるのは1次電池と2次電池です。このうち、1次電池は充電できないものを指します。乾電池が該当します。
2次電池は蓄電池と呼ばれるもので、充電すれば繰り返し使用できるものです。種類は鉛蓄電池、リチウムイオン蓄電池、ニッケル水素蓄電池など多くの種類が存在しています。
→54_「蓄電池 耐用年数」の記事へリンク
4つの充電方式
蓄電池の充電方式は主なもので4つの方式があります。均等充電方式は長期間の使用で蓄電池のセル(バッテリーを構成する個々の電池)ごとに発生した電圧のばらつきを補正する目的で選択します。回復充電方式は停電のあとなどに容量のなくなった蓄電池に大きな電力を供給して急速充電することです。
トリクル充電方式は蓄電池に微細な電流を流し続けて充電します。回復充電方式と違い、充電時間がかかりますが、蓄電池の負担が少なく、劣化しにくいのが特徴です。フローティングチャージ方式は蓄電池と負荷機器を並列で接続し、負荷機器を動かしながら行います。一瞬でも電気が切れてほしくない機器に使っています。
正しい格納方式を
格納は自家発電設備を始動させる設備だと、キュービクルと呼ばれる金属製のボックスに入れることが多いようです。しかし、安全を期すためにキュービクルが消防法の規定に沿うものでなければなりません。
→21_「マンション 電気設備」の記事へリンク
消防法で定める設置基準
消防法などでは蓄電池設備を安全に使用するための基準を設定しています。同一の場所にある蓄電池の容量合計が4,800Ah(アンペアアワー)・セル以上となれば、蓄電池設備設置の際に消防署へ届け出て消防法の規制を受けることになります。
設置場所を規制
蓄電池は点検に便利で、火災の被害を受ける心配がない場所へ設置するのが鉄則です。消防法は不燃材料で区画された専用の場所へ設置するよう求めています。
変電設備室や発電機室など他の電気設備が収納されている場所に設置する際は、変電設備等は、ほかの機器及び水管と1メートル以上の間隔を置かなければなりません。周囲の温度を40度以下に抑え、直射日光が入らないよう求める地方自治体もあります。
法定点検を義務化
蓄電池設備の法定点検は、消防法で義務づけられています。蓄電池設備は使用を続ける間に劣化するうえ、部品の劣化が外から見るだけでは分かりにくく、正常に動いているように見えても内部で故障が発生している可能性があるからです。
電気事業法では600ボルトを超す電圧を受電する設備、建築基準法では特定行政庁が指定する設備を義務化の対象としています。
点検には資格が必要
点検に当たるのは資格を持つ人でなければなりません。消防法で資格保有者として挙げられているのは、電気工事士や蓄電池設備整備資格者、消防設備点検資格者です。電気事業法では、無資格の人でも点検できますが、電気主任技術者の監督を条件にしています。
建築基準法では、建築士や建築基準適合判定資格者、建築設備検査資格者ができるとしています。
マンション設置でメリット
蓄電池設備をマンションに設置することは、さまざまなメリットがあります。マンション経営で最大の難関となる空室リスクを下げることも期待できるでしょう。ここでは、蓄電池設備をマンションに設置するメリットを詳しく紹介します。
水害時の垂直避難が可能に
蓄電池は災害時の電力を確保するうえで、重要な設備となります。近年は水害の増加でマンションの低層階が浸水する被害が増えています。自宅の建物が浸水した場合は避難所へ向かうより、緊急に上層階を目指す垂直避難が推奨されています。しかし、停電が起きたとき、蓄電池設備がなく、共用部分に電気が来なければ、垂直避難が困難になるでしょう。このような状況に対応するため、マンションにも蓄電池設備が必要とされているのです。
ただし、河川の洪水だと、深さ2メートルの浸水で1階部分がほぼ水没します。土石流なども同時に発生しかねない場所だと、垂直避難が必ず安全とはいい切れません。垂直避難するかどうかは、そのときの状況によって判断する必要があります。
付加価値が高い物件に
災害時に共用部分の電力が使用でき、照明やエレベーターが使用できるとなれば、居住者の満足度が高まるでしょう。しかし、蓄電池設備は災害時だけでなく、平常時にも大いに役立ちます。料金の安い時間帯の電力を購入し、蓄電池設備に貯めて使用することで、共用部の電力を抑えることができるのです。その分、マンションの管理費を抑えることもできます。
そのため、蓄電池設備を備えることでマンションの付加価値が高まる可能性があります。「災害に強いマンション」をうまくPRできれば、空室を最小限に抑えるマンション経営が期待できそうです。
→53_「蓄電池 メリット」の記事へリンク
規制に従い、安全運用を
蓄電池設備は多くのメリットをもたらしてくれますが、安全な運用のためいくつかの規制が設けられています。メリットだけを求めていい加減な運用をしていたのでは意味がありません。設置者の義務を果たして大規模災害など非常時に備えましょう。