政府が進める2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向け、蓄電池への注目が高まっています。民家の屋根に設置した太陽光パネルなどによって作られる再生可能エネルギーの力を存分に発揮するために、蓄電池の存在が欠かせないからですが、実際に導入するとしたら、どれくらいの容量を選べばいいのでしょうか。蓄電池の容量について考えてみました。
脱炭素社会の期待膨らむ蓄電池
脱炭素社会で主役となる再生可能エネルギーは、発電量が不安定という弱点を持ちます。それを解決するのが蓄電池の役割です。蓄電池は電動車の心臓部としても利用されています。今後、需要は大きく伸びそうです。需要の伸びを後押しする社会の動向から見ていきましょう。
カーボンニュートラル実現の主役に
政府は2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、さまざまな施策を次々に打ち出してきました。その中のグリーン成長戦略では、蓄電池を再生可能エネルギーとともに大きな柱に位置づけています。
車はガソリンやディーゼル車から電気自動車など電動車へ切り替わっていきます。夜間に発電できない太陽光発電や風の変化に合わせて発電量をコントロールしにくい風力発電の弱点を補わなければなりません。このため、蓄電池をフル活用する必要があるのです。
自治体の太陽光パネル設置義務化加速で需要増へ
東京都や川崎市など一部の地方自治体では、新築住宅や一定規模以上の建築物に対し、太陽光パネルの設置を義務づける動きが始まりました。今後、この動きはさらに広がるとみられています。
しかも、蓄電池とセットで導入すれば、太陽光パネルが発電できない夜間にも太陽光発電で作った電気を使うことができます。自治体の動きが広がれば広がるほど、蓄電池の需要が高まりそうなのです。
覚えておきたい蓄電池の基礎知識
蓄電池には少し難しい言葉が出てきます。しっかり理解しておかないと、蓄電池選びで失敗しかねません。蓄電池の基礎知識についてまとめてみました。
容量と出力の違い
蓄電池に「容量」と「出力」という言葉がしばしば登場します。容量は蓄電池のバッテリーに電気を貯められる量を意味し、キロワットアワーという単位で表します。出力はバッテリーから瞬間的に取り出せるエネルギー量です。単位はワットやキロワットを使います。
これを水に例えると、容量は水を入れるタンクの大きさになります。これに対し、出力は蛇口から出る水の量です。
定格容量と実効容量とは
容量は接続した家電製品など電気機器の使用時間に関係します。容量が大きい蓄電池ほど家電製品を長時間使え、消費電力の大きいものにも対応が可能です。
この容量は、定格容量と実効容量の2種類があり、定格容量は規定された条件下で蓄えられる電気の量、実効容量は実際に使用可能な電気の量を意味しています。
蓄電池は貯めた電気をすべて放出すると、寿命を縮めてしまいますから、一般に実効容量は定格容量の8割程度です。ただ、メーカーによっては定格容量のみを記載し、実効容量を記載しないところがあります。
蓄電池選定前に必要な準備
導入する蓄電池の選定に入る前にやっておかなければならないことがいくつかあります。どんな準備を事前にすべきなのでしょうか。
家庭の電力使用量を把握
まず、やっておくべきことは各家庭で使用している電力量を大まかに把握することです。環境省によると、1世帯が年間に使用した電力量は、2019年の全国平均で4,047キロワットアワーに上ります。以前は右肩上がりで増加していましたが、2011年の東日本大震災以降、増加にブレーキがかかっています。
総務省の家計調査から家庭の電気料金を見ると、2021年で1人世帯は月5,468円、2人世帯で9,183円です。ここから電気使用量を推計すると、1人世帯が185キロワットアワー、2人世帯が320キロワットアワーになります。1日当たりだと1人世帯6.1キロワットアワー、2人世帯10.5キロワットアワーです。
主な家電の出力目安
一般に家庭で使用されている家電製品の出力目安は、冷蔵庫(40リットル)190ワット、電子レンジ1,500ワット、エアコン650~750ワット、洗濯機(8キロ)600ワット、テレビ150ワット、パソコン100ワット、照明50~100ワット、携帯電話の充電15ワットとされます。
ここから「使用したい家電製品の合計出力×時間÷1,000」の計算式で停電時に必要な蓄電池容量の大まかな目安が出てきます。
100ボルト対応と200ボルト対応
蓄電池には、電圧が100ボルトに対応したものと100ボルトと200ボルトの両方に対応したものがあります。蓄電池の容量が大きくても同時に使える電気の量に限界があります。一般的な蓄電池は100ボルト対応ですが、これだとエアコン、IH調理器、電子レンジなどが使えません。
200ボルト対応だと、こうした心配はありません。しかし、家庭に200ボルト対応のコンセントがない場合、電気工事が必要になります。事前にどちらを選ぶのか、決めておくとよいでしょう。
全負荷型と特定負荷型
蓄電池は全負荷型と特定負荷型に分けられます。全負荷型は災害などで停電したときにすべての電源をバックアップするものです。これに対し、特定負荷型はエアコンと冷蔵庫など事前に決められた特定の設備だけに電気を送ります。
特定負荷型は比較的価格が安いのが特徴です。全負荷型は災害時もいつも通りに家電製品を使えて安心ですが、特定負荷型に比べると値が張ります。
容量別の特徴と選び方は
最後に容量別の特徴を見ていきましょう。容量に応じてメリットも変わってきますので、チェックしておくことをお勧めします。
5キロワットアワー未満
5キロワットアワー未満の容量は最もコンパクトなタイプです。太陽光発電が設置されているなど蓄電池の活用が少ない家庭に向いています。大きさはエアコンの室外機程度ですから、スペースの確保にも困らないでしょう。
5~8キロワットアワー未満
5~8キロワットアワー未満の容量は最も一般的な家庭用蓄電池です。多くのメーカーが多様な製品を販売しているため、豊富な機種の中から選べるというメリットを持ちます。これだけの容量があれば、停電時も困ることは少ないでしょう。
8キロワットアワー以上
8キロワットアワー以上のタイプは、使用電力量が多い大家族向けです。太陽光発電を設置していなくても、深夜充電した電力だけで、昼間に普段通りの暮らしができます。ただし、消防法によって最大容量は16.6キロワットアワーと規定されています。
選び方は2通り
蓄電池の容量の選び方には2通りあります。一つは停電時に必要な電力量で決める方法です。停電時に使用したい家電製品の出力合計から必要な蓄電池の容量を割り出せます。それを基に購入する蓄電池の容量を選ぶわけです。
もう一つは太陽光発電の設備容量との関係で決める方法です。売電しない世帯では、昼間に発電した余剰電力を蓄えられる容量が必要になります。出力1キロワットの太陽光発電で1日に発電できる電気は約3キロワットアワーです。発電量から昼間の使用電力量を引けば、目安となる容量が出てきます。
各家庭の使用状況に応じた選定を
太陽光発電で作った電気を有効に利用し停電時に備えるなら、容量の大きいものを選ぶと安心ですが、容量が大きくなればなるほど設置費用がかさみます。各家庭で非常時にどれだけの電力が必要かを事前に計算し、機種選定すべきでしょう。
参考:
- 蓄電池産業の現状と課題について | 経済産業省
- 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 | 経済産業省
- グリーン成長戦略(概要) | 経済産業省
- 再エネの主力電源化を実現するために | 経済産業省
- 制度改正に関する情報 | 東京都
- 川崎市地球温暖化対策推進条例の改正に向けた重要施策の考え方(案)について意見募集します(報道発表) | 川崎市
- 家庭でのエネルギー消費量について | 環境省
- 日本の電力消費 | 電気事業連合会
- 家計調査(単身世帯)| 政府統計
- 家計調査(二人以上の世帯)| 政府統計
要約文:
蓄電池の需要は、政府によるカーボンニュートラル推進や、自治体による太陽光パネル設置義務化の開始でさらに高まりそうです。蓄電池の容量選びは停電時にどれだけの電気を使用するか、太陽光発電の設備容量との関係を見ながら、決めていくとよいでしょう。