内閣府が毎年、全国の地方自治体からSDGs未来都市を選んでいます。地球環境の保護に努めながら、少子高齢化など地域が抱える課題解決と地方創生を実現するのが狙いで、採択された地域の事業を積極的に支援しています。新しい価値を創出し、新時代にふさわしい地域をつくる自治体は誕生するのでしょうか。SDGs未来都市についてまとめてみました。
SDGs未来都市とは
持続可能な開発目標と訳されるSDGsは、国際連合が2015年に定めた世界共通の目標です。その名前を冠するSDGs未来都市とは一体、どんなものなのでしょうか。
内閣府が全国の自治体から選定
SDGs未来都市は、内閣府が2018年度からSDGsの達成に向け、積極的な取り組みを進める地方自治体を全国から公募し、優れた取り組みを提案した自治体を認定する制度です。各年度で30前後の自治体が認定を受けています。
これまでに認定されたのは、2018年度に神奈川県、長崎県壱岐市など29自治体、2019年度に熊本市、岡山県西粟倉村など31自治体、2020年度に石川県金沢市、京都府亀岡市など33自治体、2021年度に東京都墨田区、京都市など31自治体、2022年度に岐阜県恵那市、和歌山県田辺市など30自治体の合計154自治体です。
優秀な提案をモデル事業に
SDGs未来都市に認定された自治体のうち、特に優秀な提案をした10自治体は、自治体SDGsモデル事業に選定されています。
優れた取り組みを進める自治体は、人口減少に歯止めがかかったり、地域の経済が活気づいたりするなど、目に見える成果が期待されます。このため、内閣府はこうした取り組みが全国各地へ広がることを狙っています。
環境、社会、経済の3価値で評価
評価されるのは、経済と社会、環境の3側面を統合した取り組みで、新しい価値を創造しているかどうかです。
応募する自治体は地域の特性を考慮しながら、地域の未来を拓く取り組みを選定しています。環境保護と地域振興の両立はなかなか難しいものですが、知恵を絞ったアイデアが各地から内閣府へ寄せられています。
SDGs未来都市誕生の背景
SDGs未来都市は国連の動きを受けて突然、始まったものではありません。政府はSDGs未来都市以前にも、低炭素社会や持続的な未来を築こうとする自治体を選定し、支援してきました。SDGs未来都市の前身について見ていきましょう。
低炭素社会目指す環境モデル都市
前身の一つが環境モデル都市です。温室効果ガスの排出大幅削減など高い目標を掲げて先駆的な取り組みを進める自治体を選定し、支援するのが目的です。
2008年度に京都市、北九州市など13自治体、2012年度に茨城県つくば市など7自治体、2013年度に北海道ニセコ町など3自治体が選ばれました。取り組み内容は再生可能エネルギーの推進やコンパクトシティ化による二酸化炭素排出削減などです。
→71_「カーボンニュートラル SDGs」の記事へリンク
高齢化社会対応で環境未来都市
もう一つの前身が環境未来都市です。環境価値や社会的価値、経済的価値の創造で誰もが暮らしたいと思う活力ある街を実現しようとする制度です。環境モデル都市に高齢化社会に対応した取り組みを加えた内容といえます。
宮城県東松島市、福島県相馬市など東日本大震災の被災地6自治体と、北海道下川町、千葉県柏市など被災地以外の5自治体が、2011年に選ばれました。
東京一極集中是正へ地方創生
2014年にスタートした地方創生もSDGs未来都市に影響を与えました。若者を中心とした人口の東京一極集中が進み、地方の人口減少が加速していることがきっかけで始まりました。自治体が提案した優秀な取り組みを優先的に財政支援する政府の施策です。
国土交通省と内閣府は2018年、都市のコンパクト化と地域の稼ぐ力向上に総合的に取り組む地方再生のモデル都市として兵庫県尼崎市、鹿児島県奄美市など32自治体を選定しています。
SDGs未来都市の取り組み事例
SDGsを推進するうえで、大都市圏と過疎地域、山村と離島などでは地域事情が大きく異なります。SDGs未来都市の代表的な自治体は、どんな取り組みをしているのでしょうか、3例を紹介します。
富山市のコンパクトシティ
富山市は2006年、JR西日本が廃線とした富山港線に次世代路面電車のLRTを走らせました。運行するのは富山市の第三セクター・富山ライトレールです。市中心部を走っている路面電車の富山軌道線と合わせ、市内の公共交通を充実させることでコンパクトシティを目指したわけです。
市中心部ににぎわいが戻ったかについては評価が分かれていますが、高齢者の外出が増えるなど一定の成果が出ています。現在は富山駅路面電車接続事業で富山港線と富山軌道線が接続されたのに伴い、富山ライトレールが富山軌道線を運営する富山地方鉄道に吸収合併されています。
目標はエネルギー自給率100% 真庭市
岡山県北部の真庭市は中国山地に抱かれた山村です。地域の大半を山林が占め、長く林業が基幹産業でした。しかし、林業不況で人口流出が続き、市の将来が危ぶまれる事態になりました。そこで、2015年に市内の山林で出た間伐材など原木市場に出荷できないものや、製材の過程で出た端材を燃料とする真庭バイオマス発電所を官民で設立しました。
発電所の出力は1万キロワットで、一部は地元の新電力を通じて市役所や公共施設の電力にしています。目標はエネルギー自給率100%です。これまで産業廃棄物として捨てられていた木材を電力に変える試みは、国内の山村から大きな注目を集めています。
SDGsで被災地復興 石巻市
宮城県石巻市は東日本大震災の津波で3,819人の死者、行方不明者を出しました。震災後は多くの住民が街を離れ、経済が壊滅的な打撃から立ち直れずにいました。この苦境から脱出するために、コミュニティ再生を掲げて復興に取り組んでいます。
使われなくなったハイブリッド車を回収し、電気自動車にリユースする事業や、ロボットを使った高齢者支援などが柱です。復興への道は簡単ではありませんが、地道な努力が続いています。
地方創生SDGsって何?
内閣はホームページに「地方創生SDGs」と題したページを開設しています。どんな内容を紹介しているのか、見ていきます。
内閣府がプラットフォームで情報発信
地方創生SDGsは官民連携のプラットフォームです。SDGsの目標達成に向けた取り組みを地方創生につなげようとする地方創生SDGsの狙いを文章と動画で詳しく解説しているほか、実際の活動事例に関する資料などをダウンロードできるようにしています。
ホームページを通じて官民がさまざまな情報やアイデアを入手し、地方創生に生かしてもらおうとしているわけです。
最大の課題は官民の連携
地方創生の成功例とされる地域はそれほど多くありませんが、官民の連携がうまく進んでいることが共通項です。官だけの努力では民意とかい離した政策が生まれることがあります。民だけの努力だと、利益優先になってしまう心配が出てきます。
地方創生SDGsのホームページでは官民連携、地域内連携の成功事例を動画で解説、これを参考に他の地域でも実践することを呼び掛けています。
→57_「SDGs 課題」の記事へリンク
ピンチをチャンスに転換へ
地方は今、戦後最大の難局に入っています。それを引き起こしているのは、人口減少や高齢化社会の進行、地方経済の疲弊です。ピンチをチャンスに変えるには、従来の発想を捨てて新時代にマッチする地域を作らなければなりません。そのキーワードの一つがSDGsなのです。