国際連合が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)という言葉が、日本でも定着してきました。21世紀の世界が抱える課題解決に向けた目標を並べた内容です。日本ではSDGsをコストと受け止める企業が多いようですが、その裏側には巨大なビジネスチャンスが広がっています。SDGsビジネスとはどんなものなのか、実際に成功事例はあるのか、詳しく解説します。
SDGsとは?
SDGsは「Sustainable Development Goals」(持続可能な開発目標)の頭文字を取ってつくられた言葉です。SDGsビジネスについて解説する前に、SDGsが何なのか、今一度おさらいしておきましょう。
17の目標で世界の課題解決
SDGsは2015年、国連が提唱しました。飢餓の撲滅や平和の追求、地球環境の保護など、現代文明が直面する17の課題に対し、2030年までの目標を定めた開発の指針で、国連サミットで決定されました。
17の目標の下には、合計169のターゲットが設定されています。17の目標をより具体的な内容にし、どうやって解決していくのかを示したものです。日本でもSDGsの目標達成に向けた取り組みが進められています。
前身はミレニアム開発目標
SDGsの前身は、2000年の国連サミットで採択されたミレニアム開発目標(MDGs)です。MDGsは2015年を達成期限にし、極度の貧困の撲滅や女性の地位向上、エイズ、マラリアなど疾病まん延の防止など8つのゴールを定めました。
しかし、MDGsはどちらかといえば、世界共通の問題解決というより、先進国による途上国支援に重きを置く内容でした。達成に向けた仕組みを先進国が考えたため、途上国の意見が通りにくいところが欠点となりました。そこで2015年に世界共通の目標として打ち出された国際目標がSDGsです。そして、SDGs達成に向けて進む過程で登場するのがSDGsビジネスです。
→57_「SDGs 課題」の記事へリンク
巨大市場開拓で大きなメリット
SDGsの目標は長年、人類が解決できなかった課題を含んでいます。達成には世界各国の膨大な努力が必要になりますが、その分実現に向けた過程で生まれる市場が大きくなると予想されています。
市場規模は各目標70~800兆円
世界的なコンサルタント企業のデロイトトーマツは2017年、「SDGsビジネスの可能性とルール形成」という報告書を発表し、SDGsの17目標ごとにSDGsビジネスの市場規模を試算しました。もっとも小さい市場で71兆円、最大で800兆円を超すものがあります。それらを単純に合計すれば、総額が3,000兆円を超えます。
デロイトトーマツの試算とは別に、2017年の世界経済フォーラムダボス会議では、SDGsビジネスの市場規模を12兆ドルとする試算が公表されています。当時の貨幣価値だと約2,160兆円に相当します。
特に有望なクリーンエネルギー
17目標のうち、もっとも市場規模が大きいとされるのは、「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」のエネルギー分野です。デロイトトーマツはこの分野の市場規模を803兆円と試算しました。発電やガス事業のクリーン化、新エネルギー開発で生まれる市場になります。クリーンエネルギー導入は他の経済分野の大半に影響があることから、市場規模も大きいのです。
日本でも現在、さまざまな企業や研究機関がエネルギー部門のクリーン化や新エネルギー開発に挑戦しています。主なものは水素発電、アンモニア発電、二酸化炭素と水素による合成燃料「イーフューエル」などです。
産業技術革新も400兆円市場
その次に大きいとみられる市場は「産業と技術革新の基盤をつくろう」で、デロイトトーマツの試算額は426兆円です。港湾インフラの開発や防災対策、老朽化した施設やシステムの最新化など多額の予算が必要になる事業が含まれています。
現在、世界で急速に進められているシステムのデジタル化や人工知能など最新テクノロジーの導入もより加速した形で進行させることになります。
国内でも取り組み事例続々と
SDGsビジネスに取り組んでいる国内の企業は少なくありません。なかには大きな成功を収めているところが出てきています。国内3社の取り組みを紹介します。
良品計画のリノベーション
良品計画が全国展開する小売店の無印良品は、個性的で良質の生活雑貨や食品の販売で人気を集めています。そんな無印良品が展開しているのが、リノベーションの提案です。新築ではなく、中古物件を購入した利用客のリーズナブルで理想的な住まいづくりを手伝う事業です。
サポートするのは物件探しから具体的なリノベーション内容までとなっています。住宅の再生でサステナブルな社会づくりに貢献しようとしているわけです。
滋賀銀行の環境経営
滋賀県の地方銀行である滋賀銀行は、環境経営に力を入れています。柱は、省資源と省エネルギーに努めるエコオフィスづくり、金融に環境保全の取り組みを盛り込んだ環境金融、そして環境ボランティア活動の3本です。
滋賀県は近畿地方の水源である琵琶湖を抱えています。水辺や生き物の保全に銀行が先頭を切って取り組む姿勢は、取引先の企業を通じて徐々に滋賀県民に広がってきています。
日清食品の培養肉
世界的な人口爆発で食肉需要が急増し、将来の食肉不足が心配されています。それを解決しようと、東京大学と産学連携して培養肉の開発に取り組んでいるのが、カップヌードルで有名な日清食品です。
培養肉とひと口にいっても、豆腐ステーキなど肉もどきから植物タンパクを肉の味に近づける植物肉、実際の肉から細胞を採取して培養した培養ミンチ肉、筋肉組織の構造を人工的に再現して肉本来の食感を再現した培養ステーキ肉などさまざまあります。日清食品は難度がもっとも高い培養ステーキ肉の開発に取り組み、2022年3月に取り組み成功を発表しました。
SDGsビジネス成功の秘訣は
ビジネス成功の秘訣はあるようでなかなか見つからないものです。ただ、SDGsビジネスについては長期的な戦略立案とパートナーシップの確立を挙げる声が出ています。
長期的な戦略立案が課題に
一般のビジネスは中長期的な視野が必要になりますが、3~5年の短い期間で成果を求められることが多いようです。しかし、SDGsビジネスは2030年に目標時期を設定しています。短い期間で成果を出しにくい分野が多いと考えてよいでしょう。
長期的な視点を中心にものを考え、実行に移して継続していく姿勢を忘れてはなりません。どんな戦略で事業を進めるのか、事業をスタートさせる前にじっくりと考えておくべきでしょう。
パートナーシップの確立を
SDGsビジネスで評価されている企業のなかに、政府機関や大学・研究機関などとパートナーシップを結んでいるところが多いことも見逃せません。
SDGsビジネスの多くはこれまでにない分野への挑戦が必要になります。自社だけでなく、できるだけ多くの知見を事業に結集することが、成功への第一歩といえそうです。
世界の変化でビジネスチャンス
SDGsで掲げられた課題は長年、世界が懸案としてきたことばかりです。これらを解決することにより、世界は大きく変わります。しかも、そこには巨大な市場とビジネスチャンスが広がっています。世界的な地位低下に苦しむ日本経済、日本企業にとって絶好の機会といえそうです。