マンションやアパートなど賃貸不動産を相続税対策に活用する人は少なくありません。相続税では土地は路線価、建物は固定資産税評価額で評価されるため、土地、建物とも購入金額より低い評価となるからです。しかも、賃貸不動産はさらに一定割合の控除があります。相続税評価額をこれだけ大幅に下げられる手段がほかに見当たらないだけに、節税の強い味方になってくれそうです。
賃貸経営で相続税対策するメリットは
賃貸経営が相続税対策でどんなメリットをもたらすのでしょうか。相続税の仕組みから考えられるメリットをまとめてみました。

相続税の仕組みとは
相続税は相続や遺贈、贈与で取得した財産にかかる税金で、被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内に相続税の申告と納税をしなければなりません。被相続人とは財産を残してくれた人を指します。取得した財産の合計額が基礎控除額を超える場合、その超えた部分に課税されます。
基礎控除額とは、土地や建物、現金など財産の合計額が、ここまでなら相続税が不要になるという基準です。「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という計算式で算出されます。基礎控除額を超えた部分を課税遺産総額と呼び、法定相続人1人当たりでその額が1,000万円以下なら10%、6億円を超えたら55%などと累進課税されます。
国税庁がまとめた2020年度の相続税申告状況によると、相続税の課税対象となったのは全体の8.8%(被相続人死亡による場合)でした。相続財産を引き継いだからといって、誰もが相続税を支払わなければならないわけではありません。
賃貸不動産の相続税評価額が低くなる
賃貸経営が相続税対策で有利になる大きな理由は、相続税評価額が大きく下がることです。現金なら額面の金額がそのまま相続税評価額になります。しかし、土地は路線価、建物は固定資産税評価額で評価されます。土地の路線価はおおむね時価の8割程度、建物の固定資産税評価額は建築代金の6割程度といわれています。このため、相続税を大きく引き下げられるのです。
そのうえ、賃貸住宅が建つ土地は相続税法上、貸家建付地とされ、約2割の減額評価があります。建物も貸家として一定割合が控除される仕組みです。相続時の賃貸割合(入居率)が満室だと、相続税評価額が最も低くなる仕組みもあります。
計算式は土地が「路線価×補正値(接する道路や土地の形で加減される値)×面積」もしくは「固定資産税評価額×評価倍率」、貸家建付地は「自用地としての価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」です。また、建物は「固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)」となります。
評価倍率とは、路線価が定められていない地域の土地の相続税評価倍率を算出するためのものです。地域と地目ごとに定められています。自用地とは、自己の利用に供されている土地を指し、相続税土地評価の利用区分の1つになっています。
アパート経営ならではのメリットも
規模が小さいアパート経営だと、もっと大きなメリットが適用される可能性があります。小規模宅地等の特例です。被相続人が営んでいた賃貸経営の土地のうち、200平方メートルまでの部分について相続税評価額を50%減額できるのです。
ただし、被相続人が亡くなる前、3年以内に賃貸経営を始めた土地は、2018年度の税制改正で該当しなくなりました。
参考記事:「アパート経営の基本!収益が出る仕組みや始め方、リスクなどを解説」
借入金で控除が可能
土地活用でマンション経営する場合、ローンを活用するのが一般的ですが、相続時に借入金が残っていると、その残額が相続税評価額から差し引かれます。債務控除という仕組みです。これも相続税対策に大きな効果を発揮してくれます。
参考記事:「マンション経営のメリット、デメリット、太陽光発電が空室リスク回避に力」
納税額をシミュレーション
賃貸経営の相続税減額がどれだけ大きな効果を持つかは、実際にシミュレーションしてみるとよく分かります。

減額の仕組みと計算方法
計算はまず、相続した財産の相続税評価額から基礎控除額を差し引きます。これにより、課税遺産総額が算出されます。課税遺産総額の大小に応じて規定されている税率をかけ、額に応じて決められている控除額を引きます。これを計算式にすると、「(相続税評価額-基礎控除額)×税率-控除額」となります。
現金相続と不動産相続を比較
5,000万円の現金か、時価5,000万円の賃貸物件を相続した場合の相続税額を計算式に当てはめて算出してみます。被相続人に配偶者がおらず、子ども1人が相続したと想定します。
まず、現金で相続した場合です。相続税評価額はそのまま5,000万円になります。ここから基礎控除額の3,600万円を引くと、課税遺産総額は1,400万円です。3,000万円以下で1,000万円を超す場合の税率は15%なので、1,400万円に15%の税率をかけ、さらに控除額の50万円を引けば、相続税は160万円になります。
今度は賃貸物件で相続したケースです。時価5,000万円の土地、建物の固定資産税評価額が3割減額されたとして3,500万円です。ここから基礎控除額を引いた段階で既にマイナスですから、課税遺産総額がゼロになります。この計算はあくまでざっくりしたものですが、相続税対策に賃貸物件が効果的なことが分かります。
相続対策で賃貸経営する際の注意点
マンションやアパートで相続税対策をする際、注意すべき点があります。いくつかを紹介します。
優良マンションの建築
被相続人が事前に相続税対策でマンションやアパート経営を始める場合、優良物件を建てておくことが欠かせません。相続税評価額の計算式には賃貸割合があり、満室のときに最も評価額が下がるからです。
長い間、満室に近い状態を維持するには、入居者が満足できる物件でなければなりません。建築場所、十分な管理、入居者が喜ぶ設備の導入など空室を生まない工夫が求められます。
参考記事:「マンション経営の失敗・成功例に学ぶ、安定経営の秘訣とは」
分割方針を決めておく
相続人が複数いる場合には、あらかじめ分割方針を決めておくことが大切です。マンションやアパートは分割しにくい財産ですから、遺産分割協議で決着させるとしたら全員の同意を得るのに困ることが少なくありません。
遺言があれば、遺産分割時に原則としてそれに従って財産が分割されます。身内でもめ事が起きないようにするため、事前に用意しておくほうが賢明でしょう。
太陽光発電も相続税対策に有効
マンションやアパートに太陽光発電を設置しておけば、相続税対策に活用できます。評価方法や控除の活用方法などを解説します。
減価償却で残存価値を評価
太陽光発電の相続税評価額は不動産ではなく、一般動産として評価されます。一般動産は売買実例価額や精通者意見価格などを参考に評価することになります。つまり、今売ったらいくらになるかで価格を決めるわけです。
しかし、太陽光発電には中古市場がなく、実例を参照するのが困難です。そこで、定率法による減価償却で評価する方法が認められています。取得価額から相続発生時点までの減価償却費の合計額を引いて算出した残存価額を固定資産税評価額とするのです。
法定耐用年数は17年
太陽光発電の法定耐用年数は17年です。定率法は残存価額に対し、一定の割合で減価償却します。太陽光発電であれば、その期間が17年続くわけです。1年目は取得価額に償却率0.127をかけた額で固定資産税評価額を算出します。2年目以降は取得価額からそれまでの減価償却費の合計を引いた額に償却率0.127をかけて算出します。
1,500万円で取得した太陽光発電を3年間使用した場合の固定資産評価額計算方法を計算式にすると、つぎのようになります。
・1年目:「1,500万円×0.127=191万円」
・2年目:「(1,500万円-191万円)×0.127=166万円」
・3年目:「1,500万円-191万円-166万円×0.127=145万円
配偶者特別控除を活用
相続税対策として活用できそうな方法は、配偶者が相続することです。配偶者には1億6,000万円まで非課税となる配偶者特別控除があります。これを利用するわけです。子どもには売電収入を贈与する形にすれば、贈与税が年間110万円まで非課税です。
不動産活用が節税の大きな一歩に
相続財産がマンションやアパートなど賃貸不動産であれば、現金に比べて大幅に相続税を節約することが可能です。計算方法は専門的でかなり複雑ですから、専門家に任せないと難しい面がありますが、これに匹敵する節税方法は見当たりません。不動産経営は相続対策の面で有効です。