原油、天然ガスなどエネルギー需要のひっ迫で電気料金の高騰が続いています。コロナ禍からの世界的な経済復興と巨大な人口を抱える中国、インドの需要増でエネルギー不足が深刻さを増すところへ、ロシアのウクライナ侵攻が追い打ちをかけ、電気料金の上昇に歯止めがかかる兆しが見えません。その影響はマンション経営にもじわじわと打撃を与えてきました。もはや避けて通れないマンションの節電対策について解説します。
オイルショック並みの記録的な電気料金

約半世紀前のオイルショック並みともいわれる電気料金の高騰が続いています。その原因と影響についてまとめました。
電気料金、過去5年間で最高に
大手電力10社の2022年8月分の電気料金は東京電力、中部電力、北海道電力の3社で値上がりし、比較できる過去5年間で最も高くなりました。天然ガスや石油など火力発電に使う燃料費が高騰しているためです。東京電力管内の電気料金値上げは12カ月連続で、この間の値上げ幅は3割に達します。
人口が多い中国とインドがエネルギー消費を増やし、コロナ禍の一段落で欧米諸国のエネルギー需要が回復に向かうなか、ロシアのウクライナ侵攻が始まりました。このため、世界的な石油、天然ガス不足が深刻化しているのです。
燃料費調整制度で原油価格など電気料金に反映
日本の電気料金には燃料費調整制度という仕組みが導入されています。燃料価格や為替ルートの変動に応じ、電気料金が自動的に変動する仕組みです。電力会社の自助努力だけではどうしようもない燃料費の上昇などを消費者に一部転嫁し、電力の安定供給を図るのが狙いです。
8月の電気料金は3~5月の原油、天然ガス、石炭の平均輸入価格を参考に決まります。電気料金への価格転嫁には上限があり、8月分の電気料金を値上げしなかった関西電力など7社はすでに上限に達しています。8月からは北海道電力も上限を迎えます。上限を超えた燃料費の上昇分は大手電力が自己負担しています。
新電力の倒産、撤退続出
燃料費の高騰は電気を売れば売るほど損をするという厳しい状況を引き起こし、電力会社の経営に深刻な打撃を与えています。特に影響が大きいのは電力自由化で新規参入した新電力です。
民間信用調査機関の帝国データバンクによると、2021年4月時点で小売電気事業者に登録した新電力706社のうち、2022年5月までに約1割に当たる104社が倒産するか、電力事業の停止・撤退を決めています。しかも、新電力の大半が法人契約の新規受け付けをしていません。
その結果、電力会社と契約を結べない企業に対し、大手電力傘下の送配電会社が救済措置として標準価格の2割高で電力供給する最終保障供給制度の契約数が5月で1万3,045件に上ることが、経済産業省の集計で分かりました。4月から約2.5倍の急増で、事業継続が困難になる企業も相次いでいます。

マンション業界も電気料金高騰に苦悩
マンション業界も電気料金の高騰で苦境に立たされています。現状はどうなっているのでしょうか。
共用部分の電気料金上昇
マンションは意外に多くの電気を消費しています。共用部分だとエレベーターや給水ポンプ、照明器具、オートロック、機械式駐車場などが多くの電気を必要とします。動力と電灯を別々に契約するのが一般的ですが、20~100戸程度のマンションなら電気料金の高騰前でも月に数万~10万円程度必要になっていたでしょう。
電気料金の高騰は当面、続くと予想されているうえ、価格の安さを売り物にしてきた新電力が法人契約を一時停止するケースも相次ぎ、安い会社への切り替えが難しくなりました。共用部分の電気料金上昇分を管理費に組み込んでしまうと、入居者の不満がたまりかねません。オーナーにとって頭が痛いところです。
省エネルギーセンターが節電ガイド
マンションでどのように節電すればいいのかについては、省エネルギーセンターがガイドやポスターなどを作ってPRしています。東日本大震災で東京電力管内の電力需給がひっ迫して以来、需要が増す夏と冬を前に広報活動を強化してきました。
入居者に対しては夏場の室温を28度にするほか、冷蔵庫の設定を「強」から「中」へ、長時間使わない家電製品はコンセントからプラグを抜くなどのアドバイスが記載されています。共用部分に対しては、照明の点灯時間短縮や空調の設定温度見直しなどを呼び掛けています。
LED照明、電子ブレーカー導入を
節電対策としておすすめしたいのは、LED照明への切り替えと電子ブレーカーの導入です。LED照明はかなり普及してきましたが、古いマンションで未対応のところが少なくありません。ハロゲンランプやハイビームランプをLEDに切り替えれば、消費電力を9割程度抑えることができます。
電子ブレーカーの導入は低圧受電のマンションに限られ、導入に工事が必要ですが、エレベーターや機械式駐車場など動力設備が多いマンションに有効な方法です。一般にマンションの動力関係は使用電力や設備の稼働状況に関係なく、最大電力値で契約されています。これを電子ブレーカーに流れる電流を基に使用電力を決める契約に改めることで、基本料金を引き下げることができるのです。
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節電対策に太陽光発電活用
太陽光発電は売電収入だけでなく、節電にも力を発揮してくれます。活用法を紹介します。
太陽光発電で自家消費と売電を
マンションの屋上は戸建て住宅より大きいスペースがありますが、有効活用できているところはそれほど多くありません。ここに太陽光発電パネルを置くわけです。既存のマンションに設置する場合、後々のトラブルを防止するため、入居者の同意を得ておくべきですが、基本的にオーナーの判断で設置が可能です。
日中は太陽光発電で生まれた電気を自家消費します。消費は室内でも共用部分でも構いません。余剰分は売電します。部屋数の多いマンションは各戸に振り分ける屋上の面積が不足しますから、どうしても共用部分での使用になります。それでも電力会社から購入するより、維持経費を大きく削減できます。
蓄電池の併設も効果的
蓄電池を設置すれば、より効果が出るでしょう。太陽光発電は夜間や雨の日に力を発揮できません。夜間や雨の日は電力会社から電気を購入することになります。マンションは夜間の電力需要が高くなりますから、昼間に作った電気をためて夜間に使用できるようにする蓄電池の効果が大きいのです。災害時の非常用電力としても活用できます。
東京都内にある総戸数51戸のマンションに出力10キロワットの太陽光発電と容量24キロワット時の蓄電池を設置したところ、夜間の共用部分電力をすべてまかなえた例があります。各戸の管理費も月当たり約1,200円引き下げることができました。
電気自動車を使ったカーシェアリングも
昼間の余剰電力を電気自動車の充電用に充て、カーシェアリングしているマンションも、大都市圏で増えてきました。都会のマンションは全世帯分の駐車場を確保するのが難しいケースもあり、近隣の月極駐車場も使用料が高いものです。子どもの送迎や買い物に車を使いにくいのが入居者の悩みの種です。
そこで、電気自動車を配備してマンション内でカーシェアリングしようというわけです。電気自動車の価格はまだ高いですが、時代の先端を行く環境にやさしいマンションとして注目を集めそうです。

スマートマンションへの転換も視野に
太陽光発電と蓄電池の組み合わせをさらに進化させたのが、スマートマンションです。詳しくみていきましょう。
スマートマンションとは
経済産業省の定義によると、スマートマンションとはマンション全体でエネルギー管理や節電をする建物です。エネルギー管理には、MEMS(マンションエネルギーマネジメントシステム)を活用します。経済産業省が省エネの進展を狙って2013年度から助成制度を導入し、普及を後押ししてきました。
太陽光発電と蓄電池などを組み合わせることで無理なく省エネや節電をするとともに、災害時の非常用電源確保の役割も担います。
一括受電契約で電気代もお得に
スマートマンションのなかには、高圧の一括受電契約で電気料金を節約しているところもあります。マンションの部屋ごとに契約する低圧電力の契約より3~4割安い高圧電力をマンション全体で契約する仕組みで、スマートマンションの認定を受けていないマンションも契約できます。
各戸へ供給する電力を低圧に変換しなければならないほか、電気主任技術者を選任して届け出することが義務づけられるなど面倒な部分もありますが、各部屋で5~10%、共用部分で20~40%程度の電気料金節減効果があるとされます。
太陽光と蓄電池併用で大きな節電効果

エネルギー価格の高騰が止む兆しはなく、安い電力会社を選べる電力自由化のメリットも吹き飛んでしまいました。そのような状況のなか、最も効果を期待できるのは、マンションに太陽光パネルを設置して発電することです。蓄電池や電気自動車を併用すれば、さらに効果が上がるでしょう。スマートマンションへの転換も節電に期待できます。
