国連(国際連合)が2030年を目標に加盟国へ推進を求めている、持続可能な開発目標(SDGs)。17の目標には平和の実現や貧困の克服、不平等の解消、地球環境の保護など、だれもが当然と考える項目ばかりが並びます。しかし、それらが目標に掲げられているのは、現代社会がそんなあたりまえのことさえ実現できないでいるからです。SDGsの現状と課題はどうなっているのでしょうか。
SDGsの意味とは?
SDGsは、国連が定める持続可能な開発目標「Sustainable Development Goals」の略称です。アメリカのニューヨーク州ニューヨークにある国連本部で2015年に開催された、「国連持続可能な開発サミット」で、加盟国の全会一致により採択されました。まずはその中身から見ていきましょう。
国連が掲げる17の目標
SDGsでは、持続的な開発を進めるために、17の目標が定められています。主に、以下のような目標が含まれます。
・貧困をなくそう
・飢餓をゼロに
・すべての人に健康と福祉を
・質の高い教育をみんなに
・エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
・気候変動に具体的な対策を
・平和と公正をすべての人に
いずれも、人類が長く追い求めてきたことばかりです。
前文には「人間、地球および繁栄のための行動計画」との位置づけが記載され、すべての国と利害関係者が共同的なパートナーシップで実現に向けて行動すると規定しています。目標年次は2030年です。
目標達成に必要な169のターゲット
17の目標には、それぞれ5~10程度の具体的なターゲットが設定されています。ターゲットの総数は169で、主に次のような内容です。
・2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる
・あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる
・2030年までに、世界の再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる
・すべての女性および女児に対する差別を撤廃させる
これらのターゲットの進捗状況を測る、231のグローバル指標も設定されています。
しかし、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、2019年に取り組みの遅れを指摘しました。このため、国連は2020年からを「行動の10年」と規定し、推進の加速を各国に呼びかけています。
前身はミレニアム開発目標
持続可能な開発という考え方は、第2次世界大戦後にひたすら物質的な豊かさを追求してきたことへの反省から生まれました。先進国が物質的な豊かさを享受する一方で、途上国の飢餓や貧困が解決せず、地域紛争と環境破壊が各地で繰り返されてきたからです。
1992年にブラジルで開かれた地球サミットで、持続可能な開発を進めるための行動計画「アジェンダ21」が打ち出されました。2000年には、国連ミレニアムサミットで採択された国連ミレニアム宣言をもとに、極度の貧困と飢餓の撲滅、環境の持続可能性確保など8つの目標を掲げる「ミレニアム開発目標」がまとめられました。このミレニアム開発目標がSDGsの前身です。
各地で進むSDGsの取り組み
日本でも、SDGsの推進に向けた取り組みが徐々に広がっています。代表的な事例を紹介します。
人と自然を未来へつなぐ 北海道下川町
北海道の中央部、上川地方にある下川町は、森林資源を最大限に活用することを基本とした未来都市計画で、内閣府から2018年度のSDGs未来都市に選ばれました。人口は3,000人余りで、ピーク時(1960年)の4分の1を下回る過疎の山村ですが、人と自然を未来へつなごうと街を挙げた懸命の努力を続けています。
地域の基幹産業である林業を生かし、新築や改築時に地元材の使用を推進するとともに、高断熱化と高気密化を進めた健康省エネ住宅の建設に力を入れています。目指す先に見えるのは、森と共生した未来の町の姿です。
SDGsトレインで市民にPR 阪急阪神ホールディングス株式会社
関西私鉄大手の阪急阪神ホールディングス株式会社は、グループ一体で2009年から社会貢献活動「阪急阪神未来のゆめ・まちプロジェクト」を進めてきました。活動10周年を迎えた2019年には、「SDGsトレイン 未来のゆめ・まち号」の運行を開始し、市民にSDGs推進をアピールしました。
SDGsトレインは、走行に使う電力のすべてを再生可能エネルギー由来とし、社内の広告スペースを活用してSDGsをわかりやすく解説しています。
全国に広がるこども食堂
地域の子どもたちがひとりで気軽に出かけられ、無料または安価で食事ができる「こども食堂」が全国に広がっています。この取り組みは、貧困をなくし、平等を目指すSDGsの目標を推進する大きな力になっています。
こども食堂は、家庭の事情でひとりきりで食事をとる子どもたちが増えてきたことから、2001年に民間団体が始めた活動です。2021年には全国6,000カ所を上回り、世代を超えた交流拠点に発展しています。
目標達成へ後退続いた2022年
2020年から行動の10年がスタートしたSDGsですが、世界的な大問題がこのところ連続して起き、大きなつまずきを見せています。
新型コロナウイルスで貧困に拍車
問題のひとつは、新型コロナウイルスの感染拡大です。2019年に中国で確認された新型コロナウイルスは、変異を重ねながら世界中に広がりました。2022年9月末現在で、6億人以上の感染者と650万人を超す死者を出しています。その結果、国連によると2020年に低収入労働者の割合が20年ぶりに増え、800万人の労働者が貧困に追いやられたと報告されています。
国連は新型コロナウイルス感染症の拡大により、貧困対策で世界各国が進めてきた4年分以上の前進が帳消しになったとみています。
ウクライナ戦争で食糧危機
コロナ禍が収束しないなか、2022年には次の難題が世界に降りかかりました。ロシアのウクライナ侵攻です。ロシアとウクライナの多数の兵士、多くのウクライナ市民に犠牲が出たばかりか、核戦争の不安が1962年のキューバ危機以来の状況に高まっています。
戦場となったウクライナは世界有数の食糧輸出国です。そのため、中東やアフリカ諸国で食糧不足が広がり、食糧危機の不安が高まっています。さらに、エネルギー価格の高騰もあり、国連は極度の貧困状態にある人が1億人近く増えたと推計しています。
歯止めが利かない地球温暖化
この間、地球温暖化はますます進行しました。2021年には、エネルギー関連の二酸化炭素排出量が過去最高を更新しました。世界の気温上昇に歯止めがかからず、異常気象が各地を襲っています。
異常気象が続けば、農作物の生産に大きな影響が出ます。食糧不足が貧困と国家間の不平等を拡大させ、食料や水をめぐる紛争の引き金になることが心配されています。あたりまえのことを並べたSDGsの目標達成が遠くなる事態に、国連はもどかしさを感じているようです。
日本のSDGs世界ランキングは19位
国連の研究組織である「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」が毎年公表しているSDGs国別ランキングで、日本は2022年、163カ国中の19位に位置しています。日本は世界のなかで健闘しているといえるのでしょうか。
上位を維持するも毎年後退
ランキングはトップがフィンランド、2位がデンマーク、3位がスウェーデンと北欧諸国が上位を占めました。上位10カ国はドイツやフランス、スイスなど、すべてヨーロッパの国で占められ、11位以降20位まで見ても、19位の日本以外はヨーロッパ諸国ばかりです。
これだけを見れば、日本はヨーロッパ諸国とともにSDGsを牽引していると解釈することもできますが、実は日本は2019年の15位から3年連続でランクを下げているのです。
男女平等や環境保護に課題
国連の研究組織が、日本について目標達成と評価したのは「質の高い教育をみんなに」など3つの目標だけでした。特に男女平等や環境保護では厳しい評価が下され、急いで推進しなければならない課題に浮上しています。政府だけでなく、地方自治体、企業、市民がもっと取り組みを進める必要がありそうです。
個人でできる取り組みの推進を
SDGsの目標は政府や自治体だけが取り組んでもなかなか効果が見えてきません。市民1人ひとりがその趣旨をしっかりと把握し、社会全体で取り組むことが必要です。個人でもできることは多々あります。それぞれができる範囲で努力を積み重ねていくことが、世界を変える第一歩なのです。