第三者の発電事業者に施設を無償で提供し、太陽光発電設備の投資や維持管理をしてもらうPPAに注目が高まってきました。多額の初期費用を投じることなく太陽光発電を設置できるからで、工場や倉庫の屋根などを活用する事例が各地で見られます。日本は2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向け、太陽光発電のさらなる増設が求められていますが、PPAがその実現に大きな力となりそうです。
PPA電力の仕組みとは
PPAとは「Power Purchase Agreement」の略称で、日本語に翻訳すると電力販売契約という意味です。その仕組みから見ていきましょう。
設備投資、維持管理を第三者が実施
PPAは企業や地方自治体などの法人が発電事業者、小売電気事業者と再生可能エネルギー由来の電力を長期契約する仕組みです。一般に太陽光発電設備を施設の屋上や屋根、敷地に設置するケースが多くなっています。このため、PPAは「太陽光発電の第三者所有モデル」とも呼ばれています。
太陽光発電設備の所有者は設備の管理をするPPA事業者で、メンテナンスもPPA事業者が進めます。企業や自治体は契約期間中、使用した電力料金を支払わなければなりませんが、初期投資ゼロで太陽光発電を導入でき、契約が終わると設備を譲り受けることが可能です。契約期間は10~20年が一般的です。
PPA事業者が遠隔監視
一般の太陽光発電導入と異なるPPAの特徴の一つに、PPA事業者が発電を遠隔監視、管理するための仕組みを盛り込むことが挙げられます。機器の故障によって発電できなくなるのを防ぐためです。さらに、計量器を設置することでPPA事業者は電力使用者に料金の請求ができます。
リース方式との違いはどこに
よく似た太陽光発電の導入方法にリースがあります。リース会社にリース料を支払って導入するものですが、PPA方式と異なる部分が少なくありません。
リース料を払っていますから、発電した電気をそれ以上の支払いなしに利用できます。リース費用を経費計上でき、余剰電力の売電が可能になる点もメリットですが、契約に期間終了後の譲渡が含まれていなければ、契約終了後に設備はリース会社に回収されます。
種類多様なPPA
ひと口にPPAといっても、さまざまな種類が存在しています。一体、どんなものがあるのでしょうか。
オンサイトとオフサイト
PPAの分け方の一つにオンサイトPPA、オフサイトPPAがあります。オンサイトPPAは企業や自治体の敷地内に太陽光発電を設置する方式です。発電した電気は企業や自治体が自家消費します。これまでは、この方式が主流になっていました。
オフサイトPPAは電力を必要とする需要家の敷地外に太陽光発電を設置して送配電線を通して需要家に送る方式です。発電場所が遠隔地になることも想定できます。経済産業省は今後、この方式が主流になると考えています。
バーチャルPPAとは
バーチャルPPAという方式もあります。これは実際に電力を送るのではなく、再エネ電力が持つ環境価値だけを送る方式です。需要家はバーチャルPPAの契約をしたあとで、電力会社などから実際に電気を購入し、環境価値と合わせることになります。金銭だけの取引で済むため、設置場所の確保などが不必要です。
バーチャルPPAと対照的な方式がフィジカルPPAです。これは電力と環境価値をセットで供給します。ただ、バーチャルPPAがPPA事業者から直接、再エネ電力証書を入手できるのに対し、フィジカルPPAは電力会社を通して電力と環境価値をセットにしなければ、再エネ電力証書を手に入れられません。
PPAのメリット、デメリット
企業や自治体側から見てPPAに導入にどんなメリットがあるのでしょうか。デメリットも含めて解説します。
契約期間はコスト固定
最大のメリットはPPA事業者が設備や保守点検費用を持つため、初期投資が不要になることです。所有者がPPA事業者になるため、資産計上も不要です。
長期の契約期間中、市場連動の料金を導入しなければコストがおおむね一定に固定される点も魅力です。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに電力料金の高騰が続いているうえ、今後、非化石証書などの価格も上昇すると予想されていますが、契約期間中はその影響を受けることがありません。
FITの影響を受けない
FIT制度では、産業用20年、住宅用10年で固定価格買取期間(FIT)が満了しますが、PPAを導入すれば固定価格買取期間と関係なく、再エネ事業を進めることができます。
電力会社から電気を購入すると、再エネ賦課金が上乗せされます。FIT法では電力大手に再生可能エネルギー由来の電力買取を義務付けています。再エネ電力は火力より割高ですから、その分電力大手の負担が大きくなります。その費用に一部を需要家が負担するのが再エネ賦課金です。これがないため、PPAはFIT制度の影響を受けずに調達することが可能なのです。
自家消費より節約額が小さい
電気料金は事業者によって異なりますが、電力大手より少し高く、一般の再エネ電力より少し安く設定するところが多いようです。
初期費用ゼロを考えると、外部から電力調達するより節約が可能になりますが、自前で発電施設を設置して自家消費するのに比べると、節約額が小さくなることが多いといわれています。
さらに拡大が必要な太陽光発電
日本は2050年のカーボンニュートラルを目指しています。カーボンニュートラルの達成には太陽光発電のさらなる拡大が求められていますが、現状はどうなっているのでしょうか。
震災後急増も頭打ちに
経済産業省によると、日本の太陽光発電設備の累計導入量は東日本大震災が起きた2011年、全国で531万キロワットにすぎませんでした。しかし、東日本大震災の計画停電実施や2012年のFIT制度スタートで爆発的に増加しました。
2013年度は1,766万キロワット、2015年度は3,605万キロワット、2017年度は4,773万キロワットへ伸びました。ところが、その後は太陽光発電由来電力の買取価格が下がったこともあり、頭打ちに近い状態に陥っています。
バーチャルPPA解禁へ
欧米で拡大しているバーチャルPPAは日本で普及していません。現在の制度だと需要家が環境価値を直接購入することが認められていなかったなど、障壁が存在したからです。
経済産業省は2021年からバーチャルPPAを早期に実現できる制度設計の検討を始めました。脱炭素を目指す企業で構成する日本気候リーダーズ・パートナーシップは2022年、早期実現を求める意見書を公表しました。
イオンなど本格導入開始
PPAは多くの企業で導入が始まっています。その代表例が小売り大手のイオングループです。イオングループは国内約160のイオンモールの使用電力を再生可能エネルギー由来に切り替えることを2022年から始めていますが、その主役を務めるのがPPAなのです。
イオングループはこれまで、非化石証書を使って再生可能エネルギー由来の電力を調達してきました。今後は可能な限りオンサイトPPAで調達し、不足分をオフサイトPPAで補う計画です。
中小企業も導入の検討を
PPAといえば大きな工場や広い所有地を持つ大企業が行うというイメージがあるかもしれません。しかし、中小企業でも安定して発電できる場所があれば、契約を結ぶことが可能です。脱炭素社会の実現に太陽光発電の増設は欠かせません。今から検討を始めることが大切です。