日本政府が2050年の達成を宣言したカーボンニュートラル。二酸化炭素など温室効果ガスの排出を削減するとともに、やむを得ず排出した量を森林などで吸収して温室効果ガス排出の実質ゼロを目指すものです。地球温暖化の進行を防ぐため、世界の大半の国や地域が日本と同様の宣言をし、具体的な取り組みを始めています。主な事例を紹介します。
カーボンニュートラルとは
最近、カーボンニュートラルという言葉をニュースなどでよく耳にするようになりました。一体、どんな意味なのでしょうか、まずはそこからおさらいしてみましょう。
温室効果ガス排出を実質ゼロに
カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることです。ここでいう温室効果ガスには、二酸化炭素だけでなく、一酸化二窒素やメタン、フロンなどを含んでいます。実質ゼロとは排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにするという意味です。
大前提は排出する温室効果ガスの総量を大幅に削減することです。しかし、排出を完全にゼロにすることが難しい分野も存在します。その分は植林による吸収や二酸化炭素を回収して貯蔵する新技術を活用して除去するわけです。
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背景に見える地球温暖化の危機
世界各地で近年、干ばつや水害などさまざまな気候災害が頻発するようになりました。日本でもかつてない規模の巨大台風上陸やゲリラ豪雨の多発が続いています。これらは地球温暖化が少なからぬ影響を与えているのではないかと考えられています。
温暖化がさらに進めば、食料や水の不足、島国や海岸線の水没など、さらに深刻な被害がもたらされるとみられています。これを防止するため、世界各国が団結して温暖化対策を進めなければならないのです。
途上国も相次いで対策に参加
温暖化を招いたのは、産業革命以降、大量の化石燃料を燃やして現代文明を築き上げてきた欧州や米国、日本などの先進国です。このため、これまでは先進国だけが温暖化対策を進めてきました。
しかし、中国やインドなど巨大人口を抱える国が急激に経済成長し、大量の温室効果ガスを排出するようになってきたため、世界的な取り組みとして温暖化対策を行うようになっています。
カーボンニュートラル宣言続々と
カーボンニュートラル宣言を出して温暖化対策に強い決意を示しているのは、日本政府だけでありません。国内の動きをまとめてみました。
政府は菅前首相が2020年に宣言
政府は2020年、当時の菅義偉首相が国会の所信表明演説で2050年のカーボンニュートラル宣言をしました。二酸化炭素を大量に排出する石炭火力発電の輸出に固執し、温暖化対策に後ろ向きと非難されてきたそれまでの姿勢を、180度転換したわけです。
日本経済は長引く停滞に苦しんでいますが、カーボンニュートラルに本気で取り組めば、産業構造の大転換が避けられません。そこに新たな経済成長を牽引する技術革新を見い出そうと考えているのです。
全国804の地方自治体が挑戦へ
国に続けとカーボンニュートラルを宣言する地方自治体が増えています。環境省が2022年11月末で集計したところ、全国1,718の自治体のうち、47%に当たる804自治体が宣言を出しました。内訳は京都府など43都道府県、神奈川県鎌倉市など471市、東京都葛飾区など20特別区、沖縄県竹富町など231町、北海道留寿都村など39村です。
2019年9月の段階ではわずか4自治体、2020年10月でも166自治体にとどまっていましたが、政府が宣言したあと急激に増えました。都道府県と市区町村の重複を除外した表明自治体の総人口は約1億1,900万人に達しています。
RE100に大手企業75社が参加
事業で使用する電力を100%、再生可能エネルギー由来に変えようとする民間企業も増えています。日本気候リーダーズ・パートナーシップによると、再エネ100%を目指す企業連合のRE100には、2022年12月現在で国内の大手企業77社が参加しています。
参加企業はリコー、富士通、村田製作所、花王、高島屋など大手企業が中心です。それぞれ目標年次を定めて再エネ100%達成に向けた取り組みを進めています。
→58_「RE100 日本企業」の記事へリンク
カーボンニュートラルのメリット
カーボンニュートラルはただ、環境のためだけに実現を目指しているわけではありません。企業や地域にとってさまざまなメリットが考えられます。一つずつ見ていきましょう。
ESG投資の受け皿に
世界でこのところ、急拡大が続いているのが、ESG投資です。三菱総合研究所によると、欧州で2021年、400億ドルを突破したほか、アジア太平洋で約200億ドル、北米で約150億ドルを記録するなど急激な右肩上がりの成長を続けています。
ESG投資先の選定で重要視されるのは、環境・社会・企業統治に配慮しているかどうかです。企業からすると温暖化対策を進めることで、ESG投資の受け皿になることができるのです。
企業イメージの向上
環境に配慮した行動は企業や自治体のイメージアップ材料になっています。企業は環境にやさしいことを販売促進のセールスポイントにすることが可能です。人口減少に苦しむ自治体は移住者獲得競争を勝ち抜く宣伝文句に活用しています。
次の成長の原動力に
カーボンニュートラルの実現には、技術革新が欠かせません。他国、他社に先駆けて技術革新を成し遂げた国や企業は、次の時代に大きな力を得ることになります。それは国の経済成長や企業の売り上げ増を達成する強い原動力となるのです。
国内企業の取り組み事例は
国内企業はカーボンニュートラルに向けてどんな取り組みを実践しているのでしょうか。小売りのイオン、私鉄の阪急電鉄、住宅大手の積水ハウスの事例を紹介します。
イオンが店舗に再エネ電力
イオンは2018年、「イオン脱炭素ビジョン」を策定し、店舗から排出される温室効果ガスをゼロにする取り組みを進めてきました。イオンモールなどグループ店舗に太陽光発電を設置するとともに、徹底した省エネに力を入れているのです。
再エネ100%を達成した店舗も大阪市福島区の「イオンスタイル海老江」、埼玉県川口市の「イオンモール川口」、福岡県粕屋町の「イオンモール福岡」など全国に広がりつつあります。
阪急がカーボンニュートラル駅
阪急電鉄が2010年、大阪府摂津市の阪急京都本線に開業した摂津市駅は、日本で初めてのカーボンニュートラル駅です。LED照明や省エネ機器を徹底してそろえ、温室効果ガスの排出を抑え、太陽光発電を備えて再エネ由来の電力を自家消費するほか、排出枠取引も活用しています。
摂津市駅は摂津市が進める南千里丘まちづくり構想の目玉施設で、阪急電鉄のPRだけでなく、摂津市の広告塔の役割も果たしています。
積水ハウスがZEHマンション推進
積水ハウスは省エネと創エネでZEH住宅やマンションの建設を進めています。ZEHはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略語で、エネルギー収支をゼロ以下にするという意味です。
既に分譲マンションの標準仕様をZEH化する方針を明らかにしたほか、低層マンションでは各戸でエネルギー収支ゼロを実現させています。
→4_「ゼッチマンション」の記事へリンク
中小企業や個人も積極的に参画を
現代文明は産業革命以来、化石燃料に頼って発展してきました。温室効果ガスを排出することで現在の豊かさを手に入れてきたわけです。これを見直すのは大変な作業で、政府や大企業任せにすることはできません。中小企業や個人も積極的に参画し、温室効果ガスを出さない事業や暮らしを進める必要があるのです。