省エネ時代の必需品・エネルギーマネジメントシステムとは何?
エネルギーマネジメントシステムという言葉を最近よく聞くようになりました。電気やガス、熱などのエネルギーを可視化し、最適に制御してくれるもので、工場やビル、戸建て住宅など幅広い場所で使用されています。省エネ時代を迎えた今、欠かすことができないシステムですが、実際にどれだけの効果を上げているのでしょうか、現状をまとめてみました。
使用場所によって多様なEMS
エネルギーマネジメントシステムは英語のEnergy Management Systemの頭文字を取ってEMSとも呼ばれます。使用する場所によってさまざまな種類がありますので、一つひとつ見ていきましょう。
工場で使用するFEMS

工場で使用するEMSがFEMS(Factory Energy Management System)です。購入した電力だけでなく、工場内に設けた発電設備のエネルギー管理もしています。
大きな工場で使用する電力量は膨大で、電気料金が少しでも上昇すれば経営に大きな影響を与えます。そこで、購入電力や発電施設を個別に管理するとともに、双方のバランスも最適化して購入電力量の削減に力となっています。
オフィスや商業施設ならBEMS
オフィスや商業施設で使用するEMSをBEMS(Building Energy Management System)と呼びます。各種センサーで計測したエネルギーデータを使い、ビル全体の省エネを推進します。
オフィスや商業施設のエネルギー使用量をフロア単位で可視化し、電力使用量が契約電力を超えそうになると、一部機能を自動的に停止させるなどします。オフィスや商業施設も電力使用量が大きいだけに、最新の施設ではほとんどが導入しています。
住宅で使うHEMS

住宅で使うEMSがHEMS(Home Energy Management System)です。家庭の分電盤に電力測定ユニットを設置し、無線ネットワークと接続することにより、エネルギー使用状況をパソコンなどで確認できる仕組みです。
インターネットに接続することで外出先からのエアコン操作などが可能です。内閣府は2012年の「グリーン政策大綱」で、2030年までにすべての家庭にHEMSを普及させる目標を打ち出しています。
地域全体を管理するCEMS
地域全体のエネルギー管理をするのがCEMS(Community Energy Management System)と呼ばれます。FEMSやBEMS、HEMSを包括する形で、スマートシティやスマートコミュニティーに欠かせない仕組みとなっています。
地域のエネルギー需要を事前に予測したうえで、供給する電力量を調整するほか、需給バランスを監視してピーク時の電力使用量を抑えています。
EMSの仕組みはどうなっている?
それでは、EMSの仕組みは具体的にどうなっているのでしょうか。もっと詳しく見ていきましょう。
電力使用率をリアルタイムで可視化
EMSが持つ最大の特徴は電力などエネルギーの利用状況を可視化できることです。例えば、あるフロアの空調用電力使用が著しく増えているとか、冷凍庫が電気を使用しすぎて契約電力を上回りそうなどの状況が、ひと目で分かります。
エネルギーの使用状況を人の目で細かく把握するのは非常に大変です。EMSを導入すれば、それがリアルタイムで簡単に分かります。
直ちに対策実施が可能に
EMSは可視化したデータから無駄や改善の余地を探し出し、最適化に向けて制御を始めます。直ちに対策が実施されることで大きな問題になることを防げます。
さらに、改善した結果もリアルタイムで可視化されます。そのなかで別の問題が浮上すれば、また制御にかかります。ENSはこうして繰り返し改善活動を進め、エネルギー使用の無駄を省いてくれるのです。
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具体的な導入事例を紹介
次に、EMSの具体的な導入例を官公庁の事例紹介や各企業のニュースリリースから紹介します。
住宅大手が続々とEMS導入
住宅大手が販売するマンションや新築住宅では、EMSが標準装備になっています。三菱地所レジデンスは2020年に分譲を始めた千葉県浦安市のマンションで最新式のEMSを導入しました。一括受電した電力の制御だけでなく、建物の屋上に設置された太陽光発電も同時に制御するシステムです。
大和ハウス工業は茨城県つくば市の戸建て住宅団地「スマ・エコ シティつくば研究学園」で街区内の175戸すべてにEMSと太陽光発電、家庭用蓄電池、燃料電池を導入し、街区全体のエネルギー使用状況を可視化しています。
ダイキン工業は12%の電力ピークカット
空調機器のダイキン工業は滋賀県草津市の滋賀製作所にEMSを配備し、平均12%の電力ピークカットを達成しました。工場内の省エネ意識もEMS導入で一気に高まったとしています。
宮城の災害公営住宅でも活躍
宮城県東松島市は住宅大手・積水ハウスの協力を得て市内の災害公営住宅にEMSを導入し、年間約250トンの二酸化炭素を削減しました。同時に周辺の公共施設と病院へ自営線で電気を供給しています。
栃木県芳賀町は町内の小中学校4校と11の公共施設にEMSを入れ、電力使用量を遠隔監視、制御しています。選んだ施設は災害時の避難所や町民の暮らしに必要不可欠な場所で、効率的で効果的な節電を目指しています。
EMSが欠かせない理由とは
EMSの導入は今後、ますます進みそうな状況です。現代社会にEMSが欠かせない理由はどこにあるのでしょうか。
ますます広がるEMS市場
マーケット調査大手の富士経済はHEMSと関連機器、サービスの国内市場が2035年度に104億円に達し、2020年度に比べて67.7%増加すると予測しています。FEMSも30億円に増え、2020年度を36.4%上回る見通しです。
新築戸建て住宅への太陽光発電や蓄電池設置が増えているほか、将来的に仮想発電所などを通じて需要家や一般送配電業者、小売事業者、再生可能エネルギー発電業者間の調整サービスが必要になることなどを理由に挙げています。EMS市場はますます大きくなりそうなのです。
背景にある電気料金値上がり

電気料金が高騰していることもEMS導入に拍車をかけそうです。コロナ禍からの経済復興で世界的に天然ガスなど化石燃料の使用が増えている中で、ロシアのウクライナ侵攻があり、需給バランスが崩れています。
国内の電力大手はほとんどが燃料費調整制度の上限まで価格を引き上げました。その結果、企業が省エネをさらに進めざるを得ない状況に追い込まれています。
地球環境保護へ経産省が補助金
経済産業省はEMS設置に補助金を出し、導入を推進しています。2022年度予算では114億円を確保し、上限1億円で中小企業の導入費用の2分の1、大企業に3分の1を支援します。
政府が目標に掲げる2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の実現と、地球環境保護への貢献が狙いです。EMS導入への追い風はここでも吹いています。
日本の省エネを支えるEMS

昨今の世界情勢を考えると、資源の乏しい日本がエネルギーを十分に確保するのは大変な状況になってきました。しかも、地球規模の気候変動が現実になりつつあることを考えると、省エネを避けて通れません。その第一歩となるのが、EMSの導入です。EMSを活用すれば、より効率的な省エネ対策が可能になるでしょう。
