世界的に電気自動車(EV)の売れ行きが急増しています。21世紀前半でガソリン車の新車販売打ち切りを目指す国が増えているだけに、この傾向は今後も続きそうですが、EVの活用方法は車としての利用だけでありません。家庭や事業所などで蓄電池代わりに使用することができるのです。マンション経営でも空室リスク解消に大きな力となるでしょう。
EVの時代到来、世界の販売台数大幅増
日本は2022年が「EV元年」と呼ばれていますが、海外に目を向けるとひと足早く2021年に中国、欧州を中心に販売台数が大幅に伸びました。EVの今をまとめます。
中国は前年比2.9倍、欧州66.6%の伸び
国際エネルギー機関(IEA)がまとめた2021年のバッテリー電気自動車、プラグインハイブリッド車の世界新車販売台数は前年比2.2倍の660万台になりました。このうち、バッテリー電気自動車が約7割を占めています。
地域別では、中国が前年比2.9倍の333万台、欧州が66.6%増の228万台、米国が2.1倍の63万台です。新車販売台数に占める割合は、欧州17%、中国16%、米国4.5%。日本の自動車業界が国内向けに「EV元年」をアピールする前に、世界市場をEVが席巻(せっけん)しているのです。
ガソリン新車販売停止、24カ国が宣言
海外では、政府がEVの普及を強く後押ししています。英国のグラスゴーで2021年に開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、議長国の英国が二酸化炭素を排出する新車の販売を先進国など主要市場で2035年、世界で2040年までにやめることを宣言し、カナダやノルウェー、イスラエルなど23カ国が賛同しました。
エンジン車を生産する大手自動車メーカーを持つ日本や米国、ドイツ、中国などは宣言に加わりませんでしたが、日本政府は「グリーン成長戦略で2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を実現できるよう包括的措置を講じる」としています。
ノルウェーでは急増ゆえの混乱も
一方、急激なEVの普及が社会を混乱させている国もあらわれます。。新車販売台数の8割以上がEVとなったノルウェーです。国内各地に着々とEV用の急速充電設備を設置し、その数は日本の20倍にも及ぶとされます。
しかし、2022年夏は各地で充電待ちのEVが長い列を作りました。充電装置が日本の20倍あっても足りないのです。しかも、ロシアのウクライナ侵攻で電気代がはね上がり、EVの充電を満タンにするのに日本円で約1万4,000円もかかるようになりました。ガソリン代より高い電気代に庶民の不満が高まっています。
日本は充電スポット不足の課題も
日本自動車販売協会連合会によると、2021年に国内で販売されたEVの新車は約2万1,000台です。プラグインハイブリッド車を含めても、約4万4,000台でしかありません。日本は、世界の状況に大きく後れを取ってしまっています。
地図大手ゼンリンによると、国内にある充電設備は2021年3月末で約2万9,000基です。遅々として整備が進んでいない状況で、1年前に比べて約1,000基減りました。このままの状況で普及が進めば、ノルウェー以上の混乱になると指摘する声も出ています。
EVを家庭用電源にするV2Hとは
日本でEVを普及させるには乗り越えなければならない課題があるわけですが、EVを家庭用電源として活用しようとする試みが登場しました。戸建住宅用に開発されたV2Hです。
大容量バッテリーが蓄電池の役割
EVのバッテリーは数百キロの走行に耐えられる高容量です。一般の家庭用蓄電池に比べると、数倍から十数倍の蓄電ができます。V2Hは直流電力と交流電力を変換でき、EVに従来型の充電設備より素早く充電できるだけでなく、未使用時のEVから家庭へ電気を引くことを可能にする設備です。EVが高容量の家庭用蓄電池になるわけです。
住宅に太陽光発電が設置されていれば、その余剰電力をEVのバッテリーに貯め、太陽光発電が稼働しない夜間の電力に充てることもできます。
→16_「マンション 蓄電池」の記事へリンク
非系統連系型と系統連系型
V2Hには非系統連系型と系統連系型の2種類があります。非系統連系型は住宅に電気を供給する場合、EVのバッテリーから送る電気、電力会社から送る電気、太陽光発電で作る電気のうち、ひとつしか利用できません。EVから給電していると、太陽光発電を利用できないのは大きな弱点です。
これに対し、系統連系型は3つの電気を同時に利用できます。このため、今後普及していくのはこのタイプだと考えられています。
電気代節約など多様なメリット
EVバッテリーは家庭で使う電気を数日分供給できる容量を持ちます。災害で停電した際の非常用電力、国の固定価格買取制度が終わった住宅用太陽光発電の有効活用などさまざまなメリットがあります。
夜間に安い電気を調達する電力会社のプランに加入していれば、夜間にEVのバッテリーに電気を貯め、昼間に家庭で使うことができます。電気代の節約にも強い味方になってくれるでしょう。
V2H導入に必要な条件とは
ただし、導入にはいくつか条件があります。V2HはEVと住宅を有線で結びますから、駐車場所が住宅に隣接していることが必須です。送配電事業者の配電線とV2Hを接続する必要があるため、送配電事業者の承諾も必要になります。
V2Hはマンションにも導入できますが、戸建住宅のようにバッテリーに貯めた電気を利用することはできません。ただ、充電速度は向上します。
充電設備の気になる値段は
V2Hや従来型の充電設備の価格はどれくらいなのでしょうか。まとめてみました。
種類によって価格はさまざま
従来型の充電設備を戸建住宅に設置する場合、取り付け場所や設備の種類によって費用にかなりの差が生じます。安いものだと4万円程度、高いものなら工事費を含めて30万円近くかかることもあるようです。設置場所と分電盤の距離が15メートル以上あると、配線料が余分に必要となります。
V2Hは設備の本体価格が40~90万円程度です。別に工事代金が30~40万円かかります。性能が高いだけに、従来型の充電設備に比べると、かなり高額です。
V2Hには国や自治体が補助金
V2Hの導入には2022年度、経済産業省が設備費と工事費を合計して上限115万円の補助金を設けています。自治体では神奈川県などに補助制度があります。ともに人気が高く、すぐに補助枠に達してしまいますが、活用できれば高額な導入費を軽減できます。
マンション経営にどう生かす
EVの充電設備導入はマンションでも急速に広がろうとしています。この流れに乗ることが将来のマンション経営を成功に導く鍵のひとつとなりそうです。
大京がEV充電設備を標準仕様化
マンション大手の大京は2022年5月、今後開発する分譲マンションにEV充電設備の設置を標準仕様とする考えを明らかにしました。業界初の取り組みで、駐車区画数の50%に設備を置くことにしています。
東急不動産は駐車区画すべてに充電設備を設置した分譲マンションを2022年11月に東京都目黒区で完成させます。野村不動産は2025年に相模原市で完成するタワーマンションで、200の駐車区画すべてに充電設備を備えるとしています。
充電設備設置でマンションの魅力向上
マンション大手のこうした動きは今後、さらに加速するでしょう。個人経営のマンションも充電設備の設置を無視していれば、マンションの魅力で差をつけられることになりかねません。
格安EVを海外展開するテラモーターズは2022年4月、既存マンション向けの充電サービスに参入しました。こうした取り組みも今後、増加が予想されるため、今から検討しておく必要があるでしょう。
高性能充電器で快適な暮らしを
近い将来、EVが当たり前の時代が訪れそうです。そんな時代に家庭用蓄電池より大容量となるEVのバッテリーは快適でお得な暮らしを築く強い味方となってくれるでしょう。車社会の劇的な変化を前に、今から家庭や事業所、マンション経営への利用を検討してもいいのではないでしょうか。