不動産経営において、収入の大部分を占めるのは入居者からの家賃収入です。この家賃収入は消費税の課税対象となるのか、正しく把握できているでしょうか。この記事では、家賃収入が非課税にあたるのか、またどのような条件があるのかなどをまとめました。
家賃収入は原則非課税、ただし条件あり
1989年に日本で初めて導入された消費税は少しずつ引き上げられており、現在は10%まで上がっています。将来的にはさらに引き上げられることも予想されるため、もし家賃収入が課税対象なら、不動産投資家にとっては大きな影響がおよぶことになります。家賃収入は、実際のところ課税と非課税のどちらに分類されるのでしょうか。
国税庁のホームページの「No.6226住宅の貸付け」のページを見てみると、以下のような記載があります。
住宅の貸付けは、非課税とされます。
【引用】No.6226住宅の貸付け | 国税庁
ここでいう住宅とは、住居として提供される家屋を指し、具体的には戸建て住宅のほか、マンション、アパート、社宅、寮、貸間などが含まれます。このため、基本的に住宅用物件の家賃収入は非課税ということになります。
ただし、上記の物件であれば何でも住宅と認められるわけではないことに注意が必要です。入居者に貸し付けた物件が住宅用と認められるためには、以下の条件を満たしている必要があります。
・賃貸借契約書に「住宅用」と明示されている
・賃貸期間が1か月以上ある
このため、仮に賃貸借契約書に「住宅用」という記載があっても、賃貸期間が1か月未満の場合は消費税が課せられることになります。具体的にはホテルやウィークリーマンションなどが該当することになるでしょう。また、賃貸借契約書がなく物件の用途が明らかでなくても、実際に居住実態があるケースなども非課税となります。
このほか、企業が社宅として従業員と賃貸借契約を結んでいる場合は、賃貸借契約書に「従業員が居住する」という記載があれば、住宅とみなされ非課税となります。また、課税売上高が1,000万円以下の場合は、住宅用であるかどうかや契約書の内容、賃貸期間を問わず消費税は非課税です。
固定資産税については、以下の記事で詳しく説明しています。ぜひあわせてご確認ください。
※「#39アパート固定資産税」へのリンク入ります
家賃以外の収入の取り扱い
住宅用物件の家賃収入は基本的に非課税となりますが、それ以外の収入についてはどのように取り扱われるのでしょうか。それぞれ個別に見ていきましょう。
集合住宅の管理費・共益費
アパートやマンションなどの集合住宅は、家賃のほか共用部分の電気代や清掃代を賄うための管理費・共益費が発生します。管理費や共益費は入居者が共同利用する部分の費用を分担して支払うとされるため、家賃の一部とみなされ非課税の扱いとなります。
礼金・敷金
入居者から支払われる礼金のほか、敷金や保証金の返金しない部分は家賃収入に含まれるとみなされ非課税となります。
駐車場
駐車場は以下の条件をすべて満たす場合に限り非課税となります。
・一戸当たり1台分以上の駐車スペースが確保されている
・自動車の保有の有無にかかわらず、全戸に駐車場が割り当てられている
・家賃とは別に駐車場使用料を徴収していない
付帯設備の利用料
付帯設備は利用状況により課税か非課税かの取扱いが変わります。アパートやマンションにあらかじめ付帯している設備は家賃に含まれるとして非課税となります。
一方で、入居者の希望により設置した設備や提供しているサービスの利用料は課税対象となります。具体的には家具や家電、倉庫スペースなどのレンタル料金が含まれます。また、マンションにプールやジム、スパなどの施設が付帯している場合、入居者以外が利用できず、家賃と別に利用料を徴収していない場合に限り非課税となります。
事業用賃貸物件の家賃収入
消費税が非課税となるのは、住宅として賃貸借される物件のみです。そのため、オフィスや店舗、貸倉庫など事業用賃貸物件の家賃収入は課税対象となります。ただし、店舗と受託が併設されているような物件の場合は、住宅部分に相当する家賃のみが非課税として取り扱われます。
アパート経営については、以下の記事で詳しく説明しています。ぜひあわせてご確認ください。
※「#20アパート経営」へのリンク入ります
インボイス制度はどう影響する?
2023年10月1日から「インボイス制度」が運用開始になります。すでに2021年10月から登録受付も始まっていることから、不動産経営にどのような影響があるのか気になっている人も多いのではないでしょうか。
先にご紹介したとおり、住宅用物件の家賃収入は基本的に非課税対象として取り扱われます。そのため、住宅用物件のみを賃貸している場合、また駐車場や付帯設備など家賃以外の収入も非課税のみの扱いの場合は基本的にインボイス制度の影響はありません。
ただし、オフィスや店舗など事業用物件の家賃収入がある場合は注意が必要です。
まず、事業用物件の家賃収入があっても課税売上高が1,000万円以内で、オフィスや店舗などテナントも免税事業者であればインボイス制度への対応は必要ありません。反対に、事業用物件の家賃収入があり、課税売上高が1,000万円を超えている場合は課税対象となります。テナントが免税事業者であるかどうかに関わらず、不動産オーナーはインボイス発行事業者の登録が必要です。
一方で、不動産オーナーが免税事業者で、テナントが課税事業者の場合は、インボイス制度への対応を検討する必要があります。インボイス制度開始後は、インボイス(適格請求書)でない請求書では、仕入税額控除を受けることができなくなるためです。仕入税額控除を受けられないと税計算で不利になるため、オフィスや店舗の入居者が課税業者だった場合、オーナーはインボイスの発行を求められる場合があります。
インボイスを発行できるのは課税事業者のみとなるため、オーナーが免税事業者の場合はインボイスを求められても発行することができず、テナントは税計算で不利になります。この場合、以下のような対応が必要となります。
・仕入税額控除を受けられない分の損失を家賃から差し引く
・オーナー自身の課税売上高が1,000万円以下でも課税事業者になることを選択し、インボイスを発行できるようにする
少し複雑ですが、まとめると以下のようになります。
■住宅用物件の家賃収入のみの場合
・インボイス制度は影響しない
■オフィス・店舗など事業用物件の家賃収入がある場合
・テナント、オーナー共に免税事業者:インボイス制度は影響しない
・テナントは課税事業者、オーナーは免税事業者:インボイス制度の対応を検討する
・オーナーが課税事業者:インボイス発行事業者の登録が必要
不動産所得の経費については、以下の記事で詳しく説明しています。ぜひあわせてご確認ください。
※「#14不動産所得経費」へのリンク入ります
迷った場合は専門家に相談を
マンション経営で得られる家賃収入が課税・非課税のどちらになるかは、住宅用物件か事業用物件かだけでなく、その項目によっても変わります。そのため、ご自身の管理する物件が何に該当するかをよく調べて把握することが重要です。税の取り扱いを自分で判断するのに不安を感じる場合は、税理士など専門家に相談することをおすすめします。