近年、よく使われるようになった言葉にサステナビリティとSDGsがあります。サステナビリティの日本語訳は「持続可能性」、SDGsは「持続可能な開発目標」とよく似ていて混同する人が少なくありませんが、言葉の持つ意味は少し違います。関連用語のESG、CSRも含めて言葉の意味の差とそれぞれの関係性に迫ってみましょう。
サステナビリティとSDGsの差は何?
サステナビリティとSDGsはインターネット上や雑誌の記事でしばしば混同して使用されています。方向性は同じなのですが、どこが違うのでしょうか。
サステナビリティとは
サステナビリティは、国際連合の「環境と開発に関する世界委員会」が1987年に公表した報告書で初めて登場した概念です。報告書では持続可能な開発を「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義しています。環境と開発が互いに反するものではなく、両立できると考えているわけです。
1960年代から70年代の日本が高度経済成長を達成した時期に、先進国の生活水準は一気に向上しました。しかし、各地で環境破壊が相次ぎ、未来に大きなツケを残す形になりました。これを反省した結果、サステナビリティという言葉が登場したのです。
SDGsとは
SDGsは「Sustainable Development Goals」の頭文字を取った言葉で、2015年の国連総会で加盟国の全会一致で採択されました。2030年のあるべき世界の姿を描いた17の目標と、目標達成のために必要な具体的内容を示す169のターゲットで構成されます。
SDGsにおける17の目標には、平和の実現や差別・不平等、貧困の解消、環境保護など極めて当たり前のことが並べられました。いずれも人類が20世紀から積み残してきた課題です。21世紀に入ってもこれら課題の解決が一向に進まない現状に国連が業を煮やした結果といえるでしょう。
サステナビリティ達成の目標がSDGs
サステナビリティが期間を定めていない長期目標なのに対し、SDGsには2030年という目標が存在しています。サステナビリティを達成するための目標としてSDGsが生まれたわけです。
これを企業に当てはめると、サステナビリティは企業の存在意義で、SDGsはそれを実現させるための経営課題となります。
類似語とサステナビリティの関係は?
SDGs以外にもサステナビリティの類似語が最近、社会に浸透してきました。ESG(環境・社会・企業統治への配慮)やCSR(企業の社会的責任)などです。こちらもサステナビリティとどう違うのか、まとめてみました。
ESGとは
ESGは環境を意味する「Environment」、社会を表す「Social」、企業統治を示す「Governance」の頭文字を集めた言葉で、これらに配慮した取り組みを指標にして投資することをESG投資と呼びます。もともとは投資から生まれた言葉ですが、現在は企業の取り組み全体に及んできました。
ESG投資は日本だとようやく動き始めたところですが、欧米では一足早く投資額が爆発的に増え、企業が無視できない状況になっています。
CSRとは
CSRは「Corporate Social Responsibility」の頭文字を取った言葉です。企業が事業活動をするうえで、社会と環境への配慮を統合する概念といえます。企業の事業活動が社会にどんな影響をもたらしているかを自覚し、悪い影響を最小化することが求められます。
SDGsやESGほど社会に浸透しているわけではありませんから、経済産業省は質の高いサステナビリティ情報の開示を呼び掛けるなど、さまざまな取り組みを始めています。
ともにサステナビリティを支える指針
ESG、CSRとも向かう先は持続可能な社会です。サステナビリティの実現に向けた行動指針や概念と考えることができます。切り口は違いますが、サステナビリティを支え、企業や社会のあり方を示しています。
国内企業の活動が活発化
サステナビリティの実現を目指した企業の活動が国内で活発になってきました。大手3社の実例を紹介します。
水と生きる活動を展開 サントリー
飲料大手のサントリーグループは「水と生きる」を打ち出し、世界各地の水課題解決に乗り出しています。2017年に行動指針となる「水理念」をまとめました。
進めているのは工場での節水、徹底した廃水浄化、天然水の森など水源の涵養(かんよう)など多岐にわたります。同時に水資源を次代に引き継ぐため、「水育(みずいく)」と題した環境教育の展開に力を注いでいます。
京都府で森を整備 島津製作所
精密機器大手の島津製作所は、人の健康、安心・安全な社会、産業の発展を柱に掲げ、さまざまな社会貢献に力を入れています。
本社を置く京都府では、京都市の本社工場に広さ8,000平方メートルの「島津製作所の森」を整備しました。また、南丹市にある約52ヘクタールの森林で「森づくり活動」を展開、社員とその家族が自然の中で環境教育を受けるとともに、森林や生態系の保護に取り組んでいます。
途上国で医療プロジェクト 第一三共
製薬大手の第一三共グループは、発展途上国への医療支援に本腰を入れています。主な取り組みはネパールでの「乳がん・子宮頸がんスクリーニングキャンププロジェクト」、ミャンマー北部・マンダレー地方での「母子の健康を守る地域の自立を目指すプロジェクト」などです。
製薬大手として医療面では幅広い知見を持つ第一三共グループが、専門分野で国際貢献と途上国支援を果たそうと尽力しているのです。国際NGO(非政府組織)とのパートナーシップにも積極的に取り組んでいます。
サステナビリティ推進のポイント
企業がサステナビリティを意識した経営を進めていくために、どんな点が重要になるのでしょうか。キーワードは「異業種協働」と「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」です。
異業種協働で新事業創出
企業がサステナビリティを意識した経営に取り組むことは、社会貢献だけでなく、新たな事業創出のチャンスになります。特に、長年進めてきた事業分野と異なる活動を推進するなら、チャンスが大きく広がるはずです。
政府や地方自治体、NGO団体、異業種企業などとの協働は、新たな知見を獲得できる絶好の機会で新事業創出のきっかけになるといわれています。過去の成功例にもこうした事例が数多く見つかります。
SXの実践
企業が事業を継続することもサステナビリティの実践になります。その指針となるのがSXです。経済産業省はSXを社会と企業のサステナビリティを同期化させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革と位置づけています。
SXの推進に当たっては企業と投資家ら多様な人たちが長期的な視点に立ち、これからの企業のあり方や価値の生み出し方について議論し、磨き上げていくことが求められています。
世間に見える形で実践を発信
サステナビリティ、SDGs、ESG、CSRは、言葉の持つ意味は少しずつ違いますが、目指す方向性は同じです。自社の進もうとする道に合わせて言葉を選び、世間に見える形で発信しながらしっかりと実践していくことが大切です。
参考:
- SDGsとは | 外務省
- 持続可能な開発 | 外務省
- ESGとは何か | 内閣府
- 企業会計、開示・対話、CSRについて | 経済産業省
- サントリーグループのサステナビリティ | サントリー
- 事業を通じたSDGsへの取り組み | 島津製作所
- SDGsへの取り組み | 第一三共
- 伊藤レポート3.0 | 経済産業省
- 世界と日本のESG投資動向 | 三菱総合研究所
要約文:
サステナビリティとSDGs、ESG、CSRは同じ方向に向いた言葉ですが、意味は少しずつ異なります。長期的な目標であるサステナビリティを実現するための目標や行動指針、概念がSDGs、ESG、CSRです。それぞれに違いを詳しく見ていきましょう。