確定申告など会計処理で必要になる知識に減価償却があります。資産購入費を分割して経費計上する仕組みですが、計算方法に「定額法」と「定率法」の2つが存在しています。建物など計算方法を指定されているものがある一方で、どちらも選べるものもあり、計算方法の違いを熟知して会計処理することが求められます。定額法と定率法について詳しく解説します。
確定申告の減価償却とは
自動車やパソコン、建物など高額の資産を購入していれば、確定申告の際に減価償却しなければなりません。まずは減価償却がどんなものなのかから見ていきましょう。
資産購入費を分割で経費計上
減価償却をひと言でいえば、資産購入費を分割して経費に計上することです。例えば、デスクトップパソコンを20万円で購入したとします。文具など通常の消耗品なら購入年度の経費として計上しますが、資産の場合は使用可能年数に分けて購入費を経費計上します。
資産か通常の消耗品かを分けるのは、購入費が10万円以上で、1年以上使用できるかどうかです。この際に取得価額は1組で判定します。応接セットなら椅子とテーブルで1組、カーテンなら1つの部屋の中の合計が1組になるわけです。
土地は減価償却の対象外
減価償却の対象は建物付属設備や機械類、器具備品などさまざまですが、いずれも経年でその価値が下がっていくものになります。税法上はこれらを減価償却資産と呼んでいます。
減価償却資産に該当しないものに土地や骨とう品があります。どちらも年数が経過してもその価値が低下しないからです。
法定耐用年数って何?
経費を分割して計上できる使用可能期間は、資産ごとに1965年の旧大蔵省令で定められています。これが法定耐用年数です。事務所用の鉄骨鉄筋コンクリートまたは鉄筋コンクリートの建物は50年、ベッドは8年、カメラは5年などと細かく定められています。
ただ、ここでいう法定耐用年数は実際にどれだけの期間が使えるのかを示したものではありません。あくまで減価償却するための税法上の期間なのです。
→No.13_「確定申告 不動産所得」の記事へ
計算が簡単な定額法
減価償却の方法には定額法と定率法があります。一般に計算が簡単だとされる定額法から紹介します。
毎年同額の償却費計上
定額法は毎年、一定の金額を減価償却費として計上する方法です。定額法の償却額は「取得価額×定額法の償却率」で表されます。償却率はその資産の法定耐用年数に応じて定められており、法定耐用年数が2年なら0.500、3年なら0.334、4年なら0.250です。
これで購入費用の全額が減価償却される計算になるのですが、最後の年は帳簿上に簿価として1円残さなければなりません。減価償却費から1円引いた額が最終年の償却費となるわけです。
定額法で減価償却を計算
それでは実際に定額法で計算してみましょう。対象は営業用車両として300万円で購入した普通自動車です。普通自動車の法定耐用年数は6年で、償却率は0.167です。計算式に当てはめて出てくる減価償却費は50万1,000円となります。
ただ、この計算式は2007年の税制改正で改められました。それ以前に取得した資産は計算方法が少し異なります。国税庁のホームページで紹介されていますから、確認しましょう。
年ごとに償却費が減る定率法
もう一つの計算方法が定率法です。購入当初の節税に有利といわれることがありますが、どのような仕組みなのでしょうか。
初年の償却費が最大に
定率法は最初のころの償却費が大きく、次第に償却費が減っていきます。計算式は「未償却残高×定率法の償却率」です。定額法と同様に定率法の償却率も法定耐用年数ごとに決まっています。
ところが、計算式通りに償却を進めていくと、最後のほうは非常に少額の償却額が続いて減価償却が終わるまでに時間がかかりすぎてしまいます。そこで、償却費が償却保証額を下回ることになれば、改定償却率を使って償却額をはじき出します。
償却保証額は「資産の取得価額×保証率」の計算式で出します。保証率、改定償却率とも法定耐用年数ごとに定められています。改定償却率を使った計算式は「償却保証額を最初に下回った年の簿価×改定償却率」です。最後の年に簿価として帳簿上に1円残すのは、定額法と同じです。
実際の計算結果は
定額法の計算で使用した300万円の普通自動車を例に取り、定率法で計算してみましょう。普通自動車の法定耐用年数は6年ですから、償却率は0.333、改定償却率は0.334、保証率は0.09911、償却保証額は29万7,330円です。
1年目は未償却残高の300万円に償却率を掛けて99万9,000円、2年目は未償却残高が200万1,000円になりますから、償却率を掛けると66万6,333円となります。同様の計算を続けていけば、4年目に償却保証額を下回ります。4年目以降は、4年目の簿価に改定償却率を掛けて償却額を出します。
定率法の計算式は2012年の税制改正で改められています。それ以前に取得した資産については、国税庁ホームページで確認しましょう。
どちらを選べば正解?
定額法と定率法という2つの計算方法のうち、どちらを確定申告で使えばいいのでしょうか。双方のメリットを見ながら、考えていきます。
建物は定額法と規定
計算方法を指定されている人や資産が存在しています。その例の一つが個人事業主です。個人事業主は定額法で計算すると定められています。ただ、所轄の税務署に申告すれば、定率法に変えることが可能です。
資産では、建物、建物付属設備、構築物、ソフトウエアは定額法で計算することになっています。こちらも減価償却資産の償却方法の届け出を所轄税務署に出すことによって、変更が可能になることもあります。
毎年の償却額を比較
国税庁のホームページに記載されている償却例から毎年の償却額を比較してみましょう。取得価額100万円、法定耐用年数10年の資産で、便宜上1年間業務に使用していたと仮定しています。
定額法だと1年目から9年目まで10万円ずつ、10年目に簿価1円を残すため9万9,999円となります。これに対し、定率法は1年目20万円、2年目16万円、3年目12万8,000円、4年目10万2,400円、5年目8万1.920円、6年目6万5,536円と下がっていきます。
7年目は償却保証額を下回るので、計算方法を改め、9年目まで6万5,536円となります。最終の10年目は定額法と同様に簿価1円を残すため6万5,535円です。経費計上できる償却額は購入直後、定率法のほうが大きいことが分かります。
最終的な償却額は同じ
定額法のメリットは計算が分かりやすいことです。これに対し、定率法のメリットは購入当初に償却費を多く計上でき、節税対策になります。事業計画の立てやすさなら定額法、購入後の早い段階で節税したければ定率法が有利です。
しかし、償却額の合計額は定額法、定率法とも取得価額から簿価として残す1円を除いた額になります。その時の事業の状況に応じて選べばよいでしょう。
正しい知識で会計処理をスムーズに
会計の初心者にとって減価償却は少し複雑かもしれませんが、大企業だけでなく、中小企業や個人事業主にとってもおろそかにできない知識です。正しく知識を身につけておけば、会計処理がスムーズに進みます。確定申告までにしっかりと頭に入れておきましょう。
参考:
- 減価償却のあらまし | 国税庁
- 少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示| 国税庁
- 減価償却資産の償却率表| 国税庁
- 減価償却資産の償却率等表| 国税庁
- 減価償却資産の耐用年数等に関する省令 | 旧大蔵省
- 耐用年数(建物/建物付属設備)| 国税庁
- 定額法と定率法による減価償却| 国税庁
- 償却資産の評価に用いる耐用年数 | 東京都
要約文:
会計処理の減価償却には、定額法と定率法の2つがあります。定額法は毎年、一定の償却費が生じ、経営計画を立てやすいのに対し、定率法は初年の償却費が最も大きく、次第に減少していく方法です。今回は、定額法と定率法の違いについて詳しく解説します。