使用電力を100%再生可能エネルギー(再エネ)由来に切り替えることを目的にスタートした、国際的な企業連合「RE(アールイー)100」に参加する日本企業が増えてきました。各企業は、再エネ由来電力を調達する、自社施設に太陽光発電を設置するなどして目標達成を目指しています。その背景には、脱炭素やカーボンニュートラルに取り組むことが一流企業のあかしとされる国際的な風潮が見えます。
RE100って何?
RE100の参加企業を見ると、東京証券取引所プライム市場に上場している一流企業がずらりと並びます。RE100とは、一体どんな組織なのでしょうか。
2014年に発足した国際的企業連合
RE100は、再生可能エネルギー100%を意味する「Renewable Energy 100%」から命名された国際的な企業連合です。イギリスに本拠を置くの国際環境NGO(非政府組織)「クライメイトグループ」が2014年から運営しています。
目的はその名前のとおり、使用電力を100%、太陽光発電や風力発電などの再エネ由来に切り替えることです。脱炭素社会への移行を企業活動から実現させようとしているのです。
日本企業は74社が参加
RE100に参加している日本企業は、2022年10月現在で74社にのぼります。参加企業の一部を抜粋すると、株式会社リコー、イオン株式会社、エーザイ株式会社、楽天株式会社、株式会社高島屋、株式会社セブン&アイ・ホールディングス、株式会社村田製作所、花王株式会社、西松建設株式会社、東急株式会社、パナソニック株式会社など、日本を代表する企業ばかりが並びます。国別企業数で比較すると、日本は世界でも米国に次ぐ2位です。
日本では、脱炭素社会を目指す企業グループ「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)」が、2017年からRE100の地域パートナーになり、日本企業の参加を支援しています。
100%再エネ化に向けた目標設定が参加条件
RE100に参加するには条件があります。そのひとつが消費電力量で、年間100ギガワットアワー(GWh)以上とされています。しかし、日本企業に対しては現在、年間50ギガワットアワー以上に緩和されています。自社事業で使用する電力の100%再エネ化に向け、期限を切った目標を定めて公表することも参加条件のひとつです。
このほか、企業グループ全体での参加が必要となるなど、参加要件はかなり厳しくなっています。現実としては大企業しか参加が難しいといえそうです。
→46_「RE100・EP100」の記事へリンク
日本企業の活動実績は
RE100に参加する日本企業は、それぞれ100%再エネ化の目標年次を掲げ、取り組みを進めています。主な企業の取り組みを紹介します。
事業拠点をZEB化、株式会社リコー
事務機器、光学機器大手の株式会社リコーは2017年、日本企業の第1号としてRE100に参加しました。再エネ使用率を2030年までに50%、2050年までに100%にする目標を掲げ、和歌山県和歌山市や北海道帯広市の事業所をZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化しました。ZEBとは、省エネルギーと創エネルギーで1次エネルギー削減率を100%以上とした建物を指します。
さらに、イギリスの生産拠点やヨーロッパの販売拠点が使用電力を100%再エネ由来に切り替えています。
使用電力をバイオマス由来に、城南信用金庫
東京都内に本店を置く城南信用金庫は、日本の金融機関として初めてRE100に参加しました。使用電力全体の98%に相当する本店と支店の電力をすべて、2019年からバイオマス発電に切り替えています。
残り2%は省エネ・再エネ設備の導入、森林管理による温室効果ガスの排出削減量、吸収量を「カーボンクレジット」として国が保証する「J-クレジット」を購入して対応しています。再エネ100%の目標年次は2050年ですが、すでに実質100%を達成しています。
店舗に太陽光発電を導入、イオン株式会社
小売り大手のイオン株式会社も2050年を目標年次に設定しています。具体的な取り組みとして、大型ショッピングセンターのイオンモールを2025年までに、イオンタウンなどそのほかのショッピングセンターを2030年までに100%再エネ化する方針を明らかにしています。
すでに埼玉県川口市のイオンモール川口、大阪市福島区のイオンスタイル海老江、大阪府藤井寺市のイオン藤井寺ショッピングセンターなど、再エネ由来の電力だけで運営する店舗が登場しました。電力調達は再エネ由来の電力を購入するとともに、店舗屋上などに太陽光発電設備を設置して対応しています。
広がるRE100参加のメリット
大企業が100%再エネ化を進めるとすれば、多額の投資が必要です。それでも、RE100に参加する理由はどこにあるのでしょうか。
ESG投資の受け皿に
その理由のひとつがESG投資の増加です。ESG投資とは、環境保護や社会課題の解決、しっかりとした企業統治に重きを置く企業に投資することを指します。世界持続可能投資連合(GSIA)によると、2020年のESG投資額は世界全体で35兆3,010億ドル(約5,200兆円)に達しました。2018年の前回調査に比べて15%伸びています。
地域別で見ると、アメリカでは、年金基金や資産運用会社の投資額が2年前を42%上回る17兆810億ドルにのぼっています。日本でも、年金積立金管理運用独立行政法人が運用の一部をESG投資に充てるようになりました。ESG投資の受け皿になるためには、日本の大企業も環境対策に本格的に取り組まざるをえないのが実情です。
脱炭素が企業価値を左右
世界の投資家の多くが、環境保護や社会的課題の解決に取り組む企業は潜在的な事業リスクが低いとみなすようになりました。中長期的に見ると、環境対策に取り組むことが企業価値を高めていることになるのです。
このため、RE100に参加することが一流企業のあかしだと考える風潮が出てきました。「ライバル関係にある同業他社が参加したなら自社も」という意識もあり、参加企業が増えているようです。
マンション業界にもRE100の波
マンション業界大手にもRE100の波が押し寄せています。中小零細企業や個人が経営するマンションも環境対策と無縁ではなくなったようです。
マンション大手が続々と参加
RE100に参加する日本企業のうち、自社やグループ企業がマンションを販売しているところは少なくありません。積水ハウス株式会社、大和ハウス工業株式会社、東急不動産株式会社、三菱地所株式会社、三井不動産株式会社、大東建託株式会社、東京建物株式会社、野村不動産ホールディングス株式会社、森ビル株式会社など多くの大手企業が参加しています。
各企業が事業拠点の使用電力を100%再エネ化する目標を立てており、建築予定の新築マンションに100%再エネ化の波が押し寄せることは間違いないでしょう。
100%再エネマンションが登場
東急株式会社と伊藤忠都市開発株式会社は、川崎市中原区の武蔵小杉駅近くに建設予定の分譲タワーマンション「ドレッセタワー武蔵小杉」を実質再エネ電力100%とすることを公表しました。分譲タワーマンションの再エネ100%利用は、日本では初の試みです。
電力は新電力のネクストパワーから非化石証書を利用した実質再生可能エネルギーを調達します。マンション共用部の一部電力には太陽光発電でつくった電力を使うほか、非常時に使用する蓄電池を用意する方針です。このタワーマンションは2024年に完成する予定です。
ZEHを標準仕様とするところも
積水ハウス株式会社は、2023年以降に販売する分譲マンション「グランドメゾン」の全住戸をZEH(ネットゼロエネルギーハウス)、また全棟をZEH-M(ゼッチマンション)とすることを明らかにしました。ZEHは1次エネルギー削減率を100%以上とした住宅、ZEH-Mは建物全体で100%以上削減したマンションを指します。
このほか、住友不動産株式会社など多くのマンションデベロッパー大手がZEHを標準仕様とする方針を発表しています。マンション大手の新築分譲マンションはZEH化があたりまえになりそうな状況なだけに、中小零細業者も対抗せざるをえない時代が訪れようとしているのです。
RE100が日本の脱炭素化を加速
RE100に参加する日本企業の増加は、脱炭素やカーボンニュートラルに進む動きを加速させています。マンション業界もこうした動向と無縁ではありません。大手企業の動向に対抗し、中小零細企業や個人も否応なく脱炭素に取り組むことが求められています。