温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味する環境用語の「カーボンニュートラル」。2020年に当時の菅義偉首相が2050年までの実現を目指すと宣言したことで一躍一般的な言葉になりました。再生可能エネルギーを中心に水素やアンモニアなど新技術もフルに導入されることから、日本のエネルギー事情が大きく変わることは間違いありません。カーボンニュートラルについて詳しく解説します。
カーボンニュートラルの現状は
カーボンニュートラルは地球温暖化の進行を抑える目的で導入されました。言葉の詳しい意味や世界各国の導入状況をみていきましょう。

排出量と吸収量の均衡とは
カーボンニュートラルは「炭素中和」などと訳されることがあります。二酸化炭素など温室効果ガスの排出量と植林や森林管理などによる吸収量を均衡させるという意味で、温室効果ガスの大幅な排出削減と吸収作用を担う森の保全、強化を進めなければなりません。 先進国は産業革命以後、石炭や石油、天然ガスなど化石燃料をエネルギーにして現代文明を築いてきました。緑豊かな森や里山を切り開いて農地や宅地を造成し、都市を建設してきたのです。そのつけが温暖化という形で表れているわけで、カーボンニュートラルはこれまでと違う文明のあり方を目指しているといえます。
脱炭素、カーボンオフセットとの違いは
カーボンニュートラルとよく似た言葉に「脱炭素」「カーボンオフセット」などがあります。脱炭素はカーボンニュートラルと同じ意味で使われることがありますが、厳密には完全に炭素を除くという意味です。 日常生活ではどうしても排出を避けられない温室効果ガスが存在します。その対策として考えられたのが、カーボンオフセットで他者が削減した温室効果ガス量を購入し、自分が排出した量を埋め合わせるものです。ほかに「ゼロカーボン」は炭素排出量をゼロにすること、「カーボンフリー」は炭素を出さない自然エネルギーを使うことを意味します。
世界150カ国以上が宣言
目標年次を定めてカーボンニュートラルを宣言した国と地域は、第25回気候変動枠組条約締約国会議(COP25)が終了した2019年12月で121でした。宣言したのは主に欧米諸国で、世界全体の二酸化炭素排出量に占める割合は17.9%にとどまっています。 次のCOP26が終了した2021年11月には、日本をはじめ、大量排出国の中国、インド、ロシアなどが加わり、150以上の国と地域になりました。世界の排出量に占める割合は一気に88.2%に高まっています。
待ったなし、気候変動の現実
カーボンニュートラルに向けて各国が努力を始めた背景には、温暖化による気候変動が急激に進んでいることがあります。対策は待ったなしの状態なのです。

温暖化のメカニズムとは
二酸化炭素など温室効果ガスが大気中にあると、太陽からのエネルギーで暖められた地上が放射する赤外線を吸収し、再び地表に放射します。これが温室効果です。大気中に含まれる温室効果ガスの濃度が高まれば、温室効果が強くなり、地上の温度がさらに上がります。
温室効果ガスには、二酸化炭素のほか、メタン、フロン類、一酸化二窒素などがあります。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、人為起源の温室効果ガスの76%を二酸化炭素が占めています。2018年の環境省のまとめでは、国内で排出される温室効果ガスは年間で約12億トン(二酸化炭素換算)を超えます。
参考記事:「再生可能エネルギーの種類、それぞれの特徴やメリット・デメリットは?」
急激に進む地球温暖化
IPCCによると、陸域と海上を合わせた世界の平均気温は1991年から2020年の間で0.22度上昇しました。0.22度ならほんのわずかと考えるかもしれませんが、影響は甚大です。極地の氷の溶解による太平洋の島国の水没や食料生産の減少が心配されています。特に1991年以降高温となる年が多くなっています。 日本では近年、ゲリラ豪雨が多発したり、巨大な台風が襲来したりしていますが、これも温暖化の影響と考えられることが多いです。長野県では特産のリンゴの安定生産に気温上昇で問題が生じています。
21世紀末の地球はどうなる
IPCCは21世紀末、現状を上回る温暖化対策を取らなければ、世界の平均気温が20世紀末より2.6~4.8度上がり、平均海面水位が最大82センチ上昇すると予測しています。アフリカは水や食料不足、ヨーロッパや北米は洪水の増加や極端な炎暑が心配され、アジアは洪水が多発する地域と干ばつが深刻化する地域が出るとしています。
実現に向けた国や個人の取り組みは
カーボンニュートラルを実現するためにどうすればいいのでしょうか。国が進める取り組みや個人が取るべき対応をまとめてみました。
グリーン成長戦略を策定
政府の成長戦略会議は2021年、「2050年カーボンニュートラル実現に向けてグリーン成長戦略」を策定しました。2050年の電源構成で再生可能エネルギーを50~60%とする参考値を提示するとともに、遅くとも2030年代半ばまでに新車販売を100%電気自動車にするという大胆な内容です。水素やアンモニアなど次世代再エネの導入も盛り込みました。
参考記事:「再生可能エネルギーの種類、それぞれの特徴やメリット・デメリットは?
」
脱炭素事業に出資
環境省は2022年、官民ファンドの「脱炭素化支援機構」を立ち上げ、脱炭素の取り組む事業者へ出資する計画です。初年度は財政投融資を活用して約200億円を支援に充てます。将来は1,000億円規模の脱炭素事業を育てるビジョンを明らかにしています。
ゼロカーボン・ドライブを推進
環境省は再エネ由来電力と電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池自動車を活用したドライブを「ゼロカーボン・ドライブ」と命名、国民に推奨しています。ガソリン車やディーゼル車から電気自動車などへ移行する機運を盛り上げようとしているわけです。
ライフスタイルを変革
温暖化は利便性や快適性をひたすら求めてきた私たちの暮らしと密接に関係しています。国や地方自治体に任せるのではなく、私たち自身がライフスタイルを見直す必要があります。そのためになすべきことは、省エネの徹底、エネルギーの地産地消、森づくりへの参画、環境教育の推進など多岐にわたります。
不動産経営でどう対応する?
カーボンニュートラルに向けた取り組みは、不動産経営者にとっても他人事ではありません。どんな取り組みが求められているのでしょうか。
太陽光発電を有効活用
太陽光発電の有効活用は絶対条件の一つになりそうです。京都府などの自治体が新築建造物への再エネ設置を義務化していますが、この動きが今後加速しそうです。個人投資のマンションやアパートでも照明のLED化などで節電を進めるとともに、太陽光発電を設置し、共用部や非常用の電力として活用することが強く求められるでしょう。
参考記事:「マンション経営のメリット、デメリット、太陽光発電が空室リスク回避に力」
参考記事:「マンションの節電、収益安定と電力価格高騰で必須に」
省エネ性能を徹底追及
住宅・マンション大手は省エネの徹底と再エネの設置でエネルギー収支をゼロにするマンションを標準化しています。この動きはやがて中小企業や個人事業主が経営する物件にも及ぶでしょう。省エネ性能を徹底的に追い求めたマンションやアパートの建築が当たり前になるはずです。
参考記事:「物件の価値も急上昇!ゼッチマンションのメリットと評価基準」
参考記事:「スマートマンションとは?MEMSの仕組みやスマートマンション導入事例を紹介」
参考記事:「マンションのSDGsへの取り組みとは?目標達成を意識した仕組みづくりを」
不動産経営者も意識改革を
不動産経営者はこれまで、利益だけを考慮して経営を進めることができました。しかし、不動産経営にカーボンニュートラルという視点を取り入れることが必須の時代になろうとしています。そのための意識改革が何よりも求められているといえそうです。
実現に国を挙げた取り組みが必要
全地球的視点に立てば、カーボンニュートラルの実現は待ったなしの課題です。行政だけでなく、国民や企業など国を挙げて対策に乗り出さなければなりません。不動産経営でもカーボンニュートラルを視野に入れなければならない時代が来るといえそうです。