「カーボンニュートラル」「ネットゼロ」など、脱炭素を目指す新しい環境用語が多数、メディアで報じられるようになりました。そのなかで、究極の環境社会を目指すのが「カーボンフリー」です。アメリカの企業グーグルは世界に先駆けて、2030年までにカーボンフリーを達成することを目標に掲げました。カーボンフリーとはどのような内容で、世界の現状はどうなっているのかについて解説します。
カーボンフリーの意味と現状は
カーボンフリーは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガス削減を目指すための究極の到達点といわれており、ほかの環境用語とは違う特別な意味を持ちます。
温室効果ガス排出量を完全ゼロに
カーボンフリーの意味は、温室効果ガスの排出量を完全ゼロにすることです。これを実現するために使うエネルギーは、太陽光や風力、水力といった再生可能エネルギーだけです。
類似語に「ネットゼロ」や「カーボンニュートラル」がありますが、これらは温室効果ガスの排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすることを意味します。一方でカーボンフリーは、温室効果ガスそのものの排出量をゼロにすることなので、排出した温室効果ガスを森林で吸収するカーボンオフセットなどの手段を一切、排除しています。
カーボンニュートラルの先を行く環境対策
検索エンジンで「カーボンフリー」を検索しても、「カーボンニュートラル」がかなり混じり込んできます。森林による吸収などの手段を活用できるカーボンニュートラルのほうが、一般的に浸透しているからです。
岸田文雄首相が2022年5月に、今後10年間で官民合わせて150兆円の投資をする方針を示したのもカーボンニュートラルでした。カーボンフリーは、カーボンニュートラルの先を行く環境対策であると同時に、これから広まっていく言葉だといえます。
→43_「カーボンニュートラルとは」の記事へリンク
→44_「ネットゼロ」の記事へリンク
国連の国際イニシアティブが推進
カーボンフリーを推進しているのは、2021年に国際連合で始動した国際イニシアティブの「24/7Carbon Free Energy Compact(カーボンフリーエネルギーコンパクト)」です。2022年に技術標準の案が公開されるなど、動きが活発になってきました。
根底にあるのは「24/7カーボンフリー電力」という再エネ電力の調達方法です。需要家の設備と同じ送配電網に接続する再エネ電力をリアルタイムで使用するという内容で、2018年に考え方が登場した新しい方法です。
実現にはまだ時間が必要
国連で始動した国際イニシアティブの活動が本格化するのはこれからです。カーボンフリーの実現にはもう少し時間が必要なようですが、現状を見てみましょう。
目標に掲げる国や地域はゼロ
世界のほとんどの国が脱炭素社会の建設に動きだしていますが、現状は森林の吸収や排出権取引などの手法を活用し、実質ゼロを目指している段階です。カーボンフリーを目標に掲げる国や地域は出てきていません。
日本では2020年、当時の菅義偉首相が臨時国会の所信表明演説で、2050年までにカーボンニュートラルを目指す考えを明らかにしました。しかし、より大きな困難を伴うカーボンフリーには踏み込みませんでした。
課題は再生可能エネルギー供給の不安定さ
カーボンフリーの実現を困難にする課題はいくつかあります。そのひとつが再エネ供給の不安定さです。特に太陽光や風力は気象条件で発電量が変動します。日本では需給バランスを保つため、発電量が減る夜間などに揚水発電や天然ガス火力発電を稼働させています。しかし、これではカーボンフリーになりません。
突発的なトラブルを克服して安定した発電を持続する機能が弱いのも、太陽光や風力発電の弱点です。急いで乗り越えなければならない課題になっています。
インフラ化に技術的な問題も
カーボンフリーを国や地域で達成するためには、再生可能エネルギー電力のインフラ化が欠かせません。しかし、この点でも解消しなければならない技術的な課題が多く残っています。
このため、電力業界などにサービスの一部や特定時間帯に限定した部分的カーボンフリーを目指すべきではないかとする声が上がっています。
グーグルとマイクロソフトの挑戦
実現までに時間がかかるといわれているカーボンフリーですが、2030年までの実現を宣言する企業が出てきました。アメリカのグーグル社とマイクロソフト社です。テクノロジーで巨大な壁を打ち破ろうとする企業の取り組みを調べてみました。
2030年までにカーボンフリー化(グーグル)
グーグル社は2020年、自社オフィスや世界中のデータセンターで使う電力をすべて、2030年までにカーボンフリーにする方針を明らかにしました。同社は2007年にカーボンニュートラルを達成し、2017年には年間消費電力を再エネ100%にしていますが、さらに対策を強化しようとしているのです。
グーグル社は2020年、自社オフィスや世界中のデータセンターで使う電力をすべて、2030年までにカーボンフリーにする方針を明らかにしました。同社は2007年にカーボンニュートラルを達成し、2017年には年間消費電力を再エネ100%にしていますが、さらに対策を強化しようとしているのです。
テクノロジーで難題解決へ
今後は太陽光と風力発電をペアにし、バッテリーの使用を増やすことで再エネを普及させるとしています。同時に、AI(人工知能)を活用して電力需要の予測を最適化する方針です。
世界の最先端を進む同社のテクノロジーで立ちはだかる難題を解決し、さらに歩みを進めようとしているのです。
カーボンフリー視野に脱炭素化(マイクロソフト)
マイクロソフト社は、カーボンフリーを視野に入れ脱炭素を進めています。同社は2012年にカーボンニュートラルを達成しました。今後は、2030年までに温室効果ガス吸収量が排出量を上回るカーボンネガティブを実現し、2050年までに1975年の創業以来排出してきたすべての温室効果ガスを環境中から除去することを目指しています。
そのために、2025年までにエネルギー供給を再エネ100%に移行する、2030年までに世界中で運用している車を電気自動車に切り替える、10億ドルの自己資本を投入した基金を設立して温室効果ガス削減技術を発展させるといった施策を実施するとしています。
個人でできる取り組みは
国や地域全体で脱炭素を目指す場合は、国や地方自治体、企業まかせにすることはできません。将来のカーボンフリーにつなげるためには、個人レベルでの取り組みも重要です。
ごみを減らしてリサイクル
無理をして取り組みを始めると、長続きさせることが難しいかもしれません。個人でできる取り組みは、ごくあたりまえのことでよく、例えば次のようなことが考えられます。
・ごみを減らしてリサイクルに回す
・節電や省エネ、節水を心がける
・自宅に太陽光発電を設置する
・電気自動車に乗り換える
・省エネ性能で家電製品を選ぶ
個人の力は弱いかもしれませんが、それが積み重なれば大きな影響力になります。
環境意識の向上を
できることから始めると同時に、環境問題について学ぶことも大切です。自治体や環境保護団体が開く勉強会に参加したり、環境問題に関する報道に注意を払ったりするだけで、知識と意識が高まります。国民全体の意識が変われば、カーボンフリーの実現が近づくはずです。
できることから始めることが大切
少し前まで実現不可能と考えられてきたカーボンフリーが、テクノロジーの進歩で実現の希望が見える状況になってきました。国レベルで実現に向かうとしたら、個人の協力は欠かせません。できることから無理なく始めることが環境対策の基本ですが、カーボンフリー対策も同じです。