「エネルギー基本計画」から浮き彫りになったエネルギー政策の問題点
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本間貴志
本間貴志
ビジネス書・実用書専門の「アスラン編集スタジオ」の編集ライターを経てフリー。2015年より秋田県に移住、テレワークによる柔軟な働き方を実践中。

2021年7月、資源エネルギー庁から第6次「エネルギー基本計画素案(原案)」が示されました。本稿では、この基本計画素案から浮き彫りになったエネルギー政策の3つの問題点「1.野心的すぎる省エネ目標」「2.将来の電力料高騰の懸念」「3.再エネ比率の高いハードル」について解説します。

そもそもなぜ、エネルギー基本計画が注目されるのか

エネルギー基本計画とは、国が定める長期的なエネルギー政策の基本方針です。2003年10月、はじめてエネルギー基本計画が策定された後、おおむね3年ごとに見直されています。次の改定で第6次基本計画になります。

エネルギー基本計画は素案の段階で主要メディアに大きく報じられることが多いです。注目度が高い理由は、エネルギー(電力)が私たちの生活や経済活動の根幹を支える存在だからです。

これに加えて、日本が石油などの資源を海外に依存していることも大きいでしょう。火力発電が欠かせない日本にとって資源と発電の安定化は生命線です。さらに最近では温暖化対策の観点から、再生可能エネルギーや火力などの電源比率などが注視されます。

さてここから先は、2021年7月に資源エネルギー庁が示した「エネルギー基本計画素案」から浮き彫りになったエネルギー政策の3つの問題点について考えていきます。

問題点1.野心的すぎる省エネ目標

まずはこちらをご覧いただきましょう。下記のグラフはエネルギー基本計画素案で示された「2030年度の電力需要の計画」です。ここに大きな問題が隠れています。

今から6年前の2015年(平成27年)時の2030年度の電力需要の目標は9,809億kWh程度でした。今回の改定案では、そこから約1,100kWhも少ない8,700億kWh程度が示されています。国は人口減少社会が進むことなどを理由に電力需要の伸びが抑えられると考えているようです。

一方、今後は大量電力を必要とするデータセンターの国内移転や半導体工場の国内立地などが進む可能性もあります。そのなかで本当に大幅な省エネが可能なのかは未知数です。エネルギー基本計画素案では大幅な省エネを前提とした電力需要を「野心的な深掘り」と表現していますが、言い方を変えれば「強引な省エネ計画」ともいえるでしょう

この野心的すぎる省エネ計画が崩れることで、エネルギー基本計画全体が総崩れにならないよう注視が必要です。

問題点2.将来の電力料高騰の懸念

次項でくわしくお話しますが、今回のエネルギー基本計画素案には「電源構成の再生可能エネルギー比率の大幅アップ」が盛り込まれました。このこと自体は温暖化対策や2050年カーボンゼロ宣言に貢献するポジティブなことですが、一方で将来の電力料高騰の懸念が残ります。

下記のグラフのように、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの比率の高まりとともに、電力料金に上乗せされる再エネ賦課金の1kWhあたり単価は急上昇しています。

再エネ賦課金は2012年時点で1kWhあたり0.22円でしたが、2021年には1kWhあたり3.36円まで上昇しています。

もともと日本の電力料金は「主要先進国であるアメリカ、イギリス、フランスなどと比べて高い」といわれますが、再エネ賦課金の上乗せによってさらに割高になり、国際競争力の低下や家庭の負担増につながる可能性もあります。「再生可能エネルギーは広がったけれど、国や家庭が貧しくなった」という結果ならないよう、こちらも注視が必要です。

もし、再エネ賦課金の上昇が避けられないのであれば、家庭においても企業においても再エネ賦課金のいらない「再生可能エネルギー電力の自家利用」をいかに増やせるかが鍵となってきます。

問題点3.再エネ比率の高いハードル

今回のエネルギー基本計画素案については、主要メディアの多くが「再生可能エネルギーの比率が高くなったこと」にフォーカスして報道していた感があります。たとえば、エネルギー基本計画素案が公表された2021年7月21日の朝日新聞 電子版の見出しは「再エネ比36~38%へ 30年度、基本計画素案公表」というものでした。

ここで改めて、エネルギー基本計画素案が示した2030年時点の電源目標の全体像を5次計画との比較で確認してみましょう。

電源の種類第5次計画の比率第6次計画(案)の比率
再生可能エネルギー22~24%36~38%
原子力20~22%現計画のまま
水素やアンモニア1%
火力56%41%

第5次と第6次(案)を比較すると、再生可能エネルギーの比率が14%上積みになっています。この「再生可能エネルギー比率36~38%」が高いか低いかについては意見が分かれるところですが、問題はこの目標の実現性です。

日本の直近の再生可能エネルギー比率は18%しかありません(2019年度)。ということは、約10年間で比率を倍にする高い目標を設定しようとしているということです。では、「どのように再生可能エネルギー比率を高めていくのか」という点について、エネルギー基本計画素案では次のような取り組みを示しています。

取り組みテーマ主な施策
地域と共生する形での適地確保再エネ促進区域の設定
洋上風力の案件形成加速
事業規律の強化安全対策強化
地域共生のための条例策定の支援
コスト低減・市場への統合FIT・FIP制度における入札制度の活用
FIP制度による再エネの市場の統合
系統制約の克服ノンファーム型接続をローカル系統まで拡大
系統利用ルールの見直し
規制の合理化風力発電の導入円滑化に向け アセスメントの適正化
地熱の導入拡大に向け各種規制見直し
技術開発の推進次世代太陽電池の研究開発
風力の浮体式技術の開発
地熱の大深度掘削技術の開発

これらの取り組みについての印象は、1つ1つの施策は大事なものの「これを進めれば限られた期間で再生可能エネルギー比率を大幅に高められる」という決め手に欠けるものです。日本経済新聞 電子版では、エネルギー基本計画素案などに対して「国全体の視点で、脱炭素を本気で成長戦略の柱に据える覚悟は見えない(2021年8月25日付)」と、かなり厳しい論調で断じています。

日本の再エネ比率を高めるのにもっとも必要なもの

第6次「エネルギー基本計画素案」の方向性を一文に集約すると「大幅な省エネを進めつつ、再生可能エネルギー比率を倍にする」となるでしょう。言葉にするとシンプルですが、これを実現するには大きな障壁があることを本稿では解説してきました。

とはいえ、日本は再生可能エネルギー比率を何が何でも高めないといけない状況に追い込まれています。最後に、主要国の再生可能エネルギー比率を確認してみましょう。

直近の日本の再生可能エネルギー比率18%は、アメリカ(16.8%)に次いで先進国で最低クラスです。ドイツやイギリスなどの再生可能エネルギー比率が40%前後なのに対し、その半分程度しかありません。国際的な温暖化対策へのプレッシャーが強まるなか、これ以上の遅れは許されない状況です。

では、なぜ日本の再生可能エネルギー比率は高まらないのでしょうか。これについてはさまざまな要因がありますが、そのうちの1つとして「省庁間の縦割り」が挙げられます。この縦割り体質を突破できるのは、首相のリーダーシップ以外にありません。その意味で2021年秋の衆議院選挙、自民党総裁選の結果がとても重要です。

理想は省庁の縦割りを突破できる能力を持った人が、リーダーシップを発揮しやすい環境で首相に就任することですが……。日本のエネルギー計画の行方も意識しながら責任ある1票を投じましょう。

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