2021年度版「環境白書」をわかりやすく解説 そこから見える国の本音
(画像=Angkana/stock.adobe.com)
本間貴志
本間貴志
ビジネス書・実用書専門の「アスラン編集スタジオ」の編集ライターを経てフリー。2015年より秋田県に移住、テレワークによる柔軟な働き方を実践中。

2021年6月、政府は2021年版(令和3年版)の「環境白書」を閣議決定しました。環境白書は、環境ビジネスに興味のある人や企業のCSR/SDGs担当者は要チェックの資料です。ここでは「忙しくて環境白書を読むヒマがない」「初めて環境白書を読む」という人のために、2021年版のポイントをわかりやすく解説します。

そもそも環境白書とは?どんな目的で作成される?

環境白書の正式名は「環境・循環型社会・生物多様性白書」です。「循環型社会白書」と「生物多様性白書」を合わせて作成・発表しているため、長くてわかりにくい名前になっています。

環境白書が発表されるペースは年1回。環境基本法に基づいて政府が国会・国民に向けて提出するものです。その内容は、地球環境の変化の現状認識をしたうえで、日本全体がどのように考えて行動すべきかの指針が示されています。

なお、作成された環境白書は、環境省の公式サイトからダウンロードして読むことができます。原本をPDFにしたものと要約版がありますが、要約版はキーワードが列記されているつくりなので意外にポイントをつかみにくいです。そのため、原本を読むことをおすすめします。

企業のCSR/SDGsの担当者であればここに注目すべき

2021年版「環境白書」の一番のポイントとしては、菅首相が「温室効果ガスの排出実質ゼロ宣言」をしてから初めて作成されたものということが挙げられます。カーボンゼロの目標を実現するために政府が環境対策にどんな考えを持っているのかを知るうえで参考になります。

ただ、2021年版「環境白書」の全体版は300ページ超のボリュームです。これを読み込むとなると相当な労力と時間を有します。そのため「ご自身に必要な部分だけ」に絞って読むことをおすすめします。

まず、環境白書は1部(大まかな方向性など)、2部(各分野の細かい取り組みなど)から構成されます。一般の人や企業のCSR/SDGs担当者であれば、まずは1部を読むのが無難でしょう。2部は専門的な内容を知りたい人向けです。

環境白書の1部は、4章から構成されます。おおまかにいうと下記のような構成です。

1章:現状認識(新型コロナ、気候変動、生物多様性など)
2章:脱炭素社会・循環経済・分散型社会への3つの移行
3章:持続可能な地域づくりとワークライフバランス
4章:東日本大震災の被災地の復興と環境再生

企業のCSR/SDGsの担当者であれば、内容をしっかり把握したいのは「2章:脱炭素社会・循環経済・分散型社会への3つの移行」の部分です。ここだけであれば27ページなので、負担は少ないと思います。

今後、政府が支援する環境テーマ、規制するテーマとは?

環境白書の2章では冒頭で「持続可能で強靱な経済社会へのリデザイン」の実現を目指すべき理由が述べられています。要約すると次の内容になります。

世界的に地球環境の危機があり、日本では少子高齢化・人口減少が進んでいるため、環境保全の取組がしにくくなっています。だからこそ、次の3つの移行を進めて、持続可能で強靱な経済社会へのリデザイン(再設計)をしなければなりません。

  1. 脱炭素社会への移行
  2. 循環経済への移行
  3. 分散型社会への移行

1つ目の「脱炭素社会への移行」は27ページ中、12ページとかなりのボリュームを占めています。

「脱炭素社会への移行」のテーマでは、全面的に支援する分野(ゼロカーボンシティ、EV)と徹底的に規制する分野(石炭火力発電)を明確に示しています。全体的にメッセージ性の強いテキストになっていて2050年カーボンニュートラルを達成するには、これら3分野の行方がキモであることを感じさせます。

支援する分野の「ゼロカーボンシティ」では、2050年に温室効果ガス(またはCO2)の排出量を実質ゼロにすることを目指す地方公共団体に対して、計画支援や設備導入などをトータルで支援することを打ち出しています。

さらに「温室効果ガス実質ゼロ」を表明した市町村名を公表し、表明した公共団体数の右肩上がりのグラフを示すことで、表明に消極的な地方公共団体に同調圧力をかけているようにも見えます。

2021年度版「環境白書」をわかりやすく解説 そこから見える国の本音
出典:令和3年版「環境白書」内の資料

もうひとつの支援する分野のEV(電気自動車)では、EVのメリットを解説したうえで「再生可能エネルギー電力と併せた電気自動車(EV)等の購入を集中的に支援(「令和2年度第3次補正予算」で成立済み)」するとしています。単に「支援」ではなく「集中的に支援」と表現しているのが注目点です。

一方、排除する分野の「石炭火力発電」では、「非効率石炭火力」という表現を採用しているのが引っかかります。環境白書の内容を表面だけ見ると、石炭火力発電を減らしていく方針のように感じられます。しかし、資源エネルギー庁の別の資料では「日本の石炭火力は世界最高効率で、CO2排出量が相対的に少ない」「更なる高効率化、低炭素化が求められる」といった記述もあります。これを参考にすると読み方によっては、非効率(古い)石炭火力は排除するものの、高効率(新しい)石炭火力は維持するとも読み取れることから今後、この部分が抜け穴になっていないかチェックしていく視点も必要そうです。

出典:総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 第18回会合資料2-5

プラスチックごみ問題では、製造・提供・流通に関わる事業者を管理

2つ目の「循環経済への移行」では27ページ中、約6ページが割かれています。その骨子のテーマは「プラスチックごみ問題」と「廃棄物処理」です。従来の線型経済(リニアエコノミー)から循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行のための方針を示しています。

2021年度版「環境白書」をわかりやすく解説 そこから見える国の本音
出典:令和3年版「環境白書」内の資料

「プラスチックごみ問題」のテーマでは、新しい法律をつくってプラスチック容器や製品の製造・流通・提供に関わる事業者を管理していくことを打ち出しています。

具体的には、プラスチック製品の製造事業者が努めるべき「環境配慮設計に関する指針」をつくり、それに沿った認定制度をつくる予定です。さらに「認定製品を国が率先して調達」すると書かれており、この指針に従わない事業者は損することを暗にほのめかしています。

また、ワンウェイプラスチック(使い捨てのストローや食器など)の提供事業者が取り組むべき判断基準をつくり、使い捨てのストローや食器などをたくさん提供する事業者に対して勧告・公表・命令を出せるようにすると述べています。ちなみに、ここでいう「提供事業者」とは小売り・サービスに関わる企業や店舗のことです。かなりの事業者が対象になるでしょう。

「廃棄物処理」のテーマでは、一般廃棄物処理施設を地域のエネルギーセンターや災害時の防災拠点として活用していくことが求められる、としています。ただこのテーマについては、具体的な施策があまり挙げられてないことから今後の課題であると考えられます。

2021年度版「環境白書」をわかりやすく解説 そこから見える国の本音
出典:令和3年版「環境白書」内の資料

防災対応のために環境省はエネルギーの地産地消を支援

3つ目の「分散型社会への移行」では27ページ中、約8ページが割かれています。

前半は気候危機時代の「気候変動×防災」戦略の重要性が示され、自然がもともと持っていた機能を活用して災害リスク低減を図る「グリーンインフラ」を進めることが急務であるとしています。また、2020年8月に防衛省・自衛隊と連携して災害廃棄物の撤去活動をスムーズにできるようマニュアルを策定したことも紹介しています。

さらに、自立分散型のエネルギーシステムの構築は防災対応や地域活性化に役立つとしたうえで、環境省では、地域防災に貢献する「再生可能エネルギー設備、蓄電設備、自営線などを組み合わせたエネルギーシステム構築に対する支援をしていく」と明確なスタンスを打ち出しています。

環境白書内の「ESG金融推し」から見える政府の本音

本稿では2021年度版「環境白書」のなかでCSR/SDGS担当者が押さえるべきポイントをわかりやすく解説してきました。

この章を読んでいて違和感を感じるのは、「脱炭素社会への移行」の項目で少々強引な感じで「ESG金融の推進」というテーマが挿入され、2ページが割かれている点です。

確かにカーボンゼロを進めるにはESG金融の役割は大きいですが、ESG金融の拡大を前提として国の環境政策を進めるのはリスクがあります。環境白書のESG金融推しからは「環境対策を進めるのには国の予算だけでは厳しい……民間(金融)でなんとかまかなえないか……」という政府の本音が透けて見えます。

現状の医療費や福祉重視の予算配分では、環境対策にかける潤沢な予算を捻出することは難しいです。だからこそ今、環境重視時代に即した予算配分の方針が切実に求められています。このハードルを超えられなければ、中途半端な施策を乱発するだけで、「気付いたら環境後進国……」という未来が待っています。

2021年版「環境白書」第2章のPDFはこちら

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