星野リゾートはSDGsの先進企業だった 収益を悪化させるSDGsはあり得ない
(画像=諒太渡部/stock.adobe.com)
本間貴志
本間貴志
ビジネス書・実用書専門の「アスラン編集スタジオ」の編集ライターを経てフリー。2015年より秋田県に移住、テレワークによる柔軟な働き方を実践中。

「SDGsに積極的に取り組む国内企業は?」と聞かれて、どんな会社を思い浮かべるでしょうか。例えば、水素燃料自動車の開発を進めるトヨタ自動車、太陽光発電の利用に積極的なイオングループなどを思い浮かべる方も多いかもしれません。

実は、高級旅館や高級リゾートの運営で知られる星野リゾートもSDGsの先進企業です。本稿では、星野リゾートのSDGsの根幹にある思想やプロジェクトをご紹介します。

星野リゾートはSDGsが生まれる100年前から再エネを活用してきた

星野リゾートは、かなり早い段階から再生可能エネルギーの利用や地域課題と向き合う活動などを進めてきたSDGsの先進企業です。

SDGsが国連でアジェンダとして採択されたのは2015年のことです。しかし、星野リゾートの前身である星野温泉旅館が、再生可能エネルギーの1つである水力発電を開始したのは1915年です。星野リゾートはなんとSDGsがはじまる100年も前から再生可能エネルギーの利用を進めてきたのです。

そして、現在の星野リゾートは、環境や地域に貢献するSDGsの幅広い取り組みを展開しています。その内容については本稿の後半でご紹介します。

経営が苦しくなったら止まるCSRでは意味がない

星野リゾートのSDGsの思想には大きな特徴があります。それはSDGsと利益の両立を重視するということです。この点について同社の4代目社長である星野佳路氏はインタビュー(※)で「活動をCSR(Corporate Social Responsibility)ではなく、CSV(Creating Shared Value)として位置付けること」が大事であり「収益を悪化させる環境対策は行わない」と述べています。
※参照:星野リゾート・リート投資法人公式サイト上でのインタビュー

CSR(社会的責任)とCSV(供給価値の創造)の違いについて補足すると、CSRは社会の一員として環境や社会へ貢献すること自体が目的です。

一方、CSVは企業がビジネスを展開する地域をよい方向へ改善しつつ、それを活用して自社の競争力を高める施策を実行するのが目的です。もともとCSVはアメリカの経営学者マイケル・ポーターが2006年頃から提唱した考え方です。

つまり、CSVに基づけば、自社の発展につながらない環境や地域への貢献活動はあり得ないわけです。このような星野氏の考え方は一見すると、「儲けありき」という風に聞こえるかもしれません。

しかし真実は逆で、利益の一部を使ったCSRは経営が苦しくなったら止まりやすいため社会課題を解決できませんが、利益を生み出すCSVなら持続性があるとの考えを示しています。星野氏自身の言葉で表すと「収益追求のパワーを原動力とするCSV」となります。

星野リゾートのSDGsの施策集

次に、星野リゾートのSDGsの具体的な取り組みを見ていきます。同社のSDGs活動はどの業種にも参考になりますが、一番参考になるのはやはりホテル・旅館業でしょう。

ホテル・旅館業は飲食業と並んで新型コロナウイルス感染症拡大の大きな影響を受けた業界です。日本政策公庫が行ったアンケート調査によると(2021年2月実施)、ホテル・旅館業を営む企業のうち、新型コロナウイルス感染症拡大により「マイナスの影響があった」と答えたのが98.3%、売り上げが5割以上減少したと答えたのは67.0%で、調査対象となった業種の中で最も割合の高いことがわかりました(飲食業はそれぞれ96.4%と37.3%)。

新型コロナウイルスによる大きなダメージを受けて疲弊しているホテル・旅館業にとって、「収益追求のパワーを原動力とするCSV」の信念をもってSDGsを進めている星野リゾートの施策はコロナ後の経営を考えるうえで参考になるはずです。

星野リゾートのSDGsに対する基本的な考え方

星野リゾートは「ホテルと地域は一心同体」という考えに基づいてSDGsに取り組んでいます。地域の魅力が高まることで観光客が増え、ホテルにとっての利益にもつながるという考え方です。

次に挙げる取り組みは、いずれも地域の自然環境や伝統文化の保全・振興などにつながっており、地域とホテル双方のブランド力を高めています。

EIMY

EIMYとは「Energy In My Yard」の頭文字を取ったもので、直訳すると「エネルギーは自分の庭で」という意味になります。つまりエネルギーの自給自足です。

前述しましたが、星野リゾートでは1915年から水力発電に取り組んでいて、加えて地中熱利用などの開発も進めており、約70%のエネルギーを自分の土地で自給しています。これにより、例えば「星のや軽井沢」では暖房のための灯油購入がゼロになっており、収益にもプラスの効果を出しています。

ピッキオ

本格的なエコツーリズムを日本で初めて事業化。森の動物・植物との出会いを楽しむ自然観察ツアーやツキノワグマとの共存プロジェクトなどを進めています。

伝統工芸・地域文化支援

星野リゾートの旅館ブランド「界」では、その土地の伝統的な工芸や文化に触れられる部屋やサービスを提供し、若手の作家や職人たちの活躍できる場を創出しています。

ファーム星野

星野リゾートトマム(北海道占冠村)では、エネルギーや除草剤を使って維持するゴルフ場をやめて牧場に戻す「Farm Hoshino」プロジェクトを進めています。牧場の美しい景観を取り戻し、おいしい食を生産することで、自然をベースとした生産活動と観光事業を実現させています。

プラスチックの削減

海洋プラスチックごみはSDGsの主要課題の一つです。星野リゾートでは、脱プラスチック化に向けて次のような取り組みを行っています。

・シャンプーなどの客室アメニティをボトルタイプからポンプ式に変更することで、約49トンのプラスチック廃棄物を削減。

・宿泊客用の歯ブラシを、プラスチック素材としてリサイクルする仕組みを構築。100万本以上の歯ブラシを削減。

・客室に準備する水のペットボトルを廃止。パブリックエリアのウォーターサーバーからタンブラーで汲んでくる方法を全リゾナーレ施設で導入。500mlペットボトル28万本を削減の見込み。

ゼロ・エミッション

排出ごみをゼロにする取り組みです。軽井沢事業所(星のや軽井沢・軽井沢ホテルブレストンコート)は2011年11月にホテル・旅館業界で初めて廃棄物のゼロ・エミッションを達成しています。

合わせて、食物残渣の削減(Reduce)、容器や什器などの再利用(Reuse)、生ごみの堆肥化などを再資源化(Recycle)といった「3R」に取り組んでいます。

ホテル・旅館業はSDGsと相性のよい業種である

星野リゾートのSDGsの取り組みを知ると、ホテル・旅館業はSDGsと相性のよい業種であることがわかります。

都市部にあっても田舎にあっても、ホテルや旅館は地域の人や経済と深く結びついた存在です。地域の特性を活かしながらSDGsを進めることで、そのホテルや旅館にしかない体験価値を生み出し、差別化を図ることができます。

そして、宿泊者や従業員が集う場でもあるので、SDGsの取り組みによる波及効果が大きい点も見逃せません。

さらにいうと、ホテルや旅館は大きな敷地や建物を有しているため、再生可能エネルギーの設備を導入しやすい特性があります。これを自家消費することで「星のや軽井沢」のように大幅に光熱費を圧縮することが可能になります。

SDGと収益がどう結び付くのか? 立ち止まって考えることも大事

もちろん、ホテル・旅館業以外の企業にも星野リゾートのSDGsの思想と活動は参考になったはずです。星野リゾートのSDGsでもっとも特徴的なのは、利益とSDGs(CSV)が連動しなければならないという思想でした。

このような星野氏の考え方は、「とりあえずSDGsに取り組まないと淘汰される」という同調圧力の広がる日本において、企業が立ち止まって考えるきっかけになります。SDGsをムリのない形で持続的に進めるために、自社のSDGs活動と利益がどのようにリンクするのか改めて整理してみましょう。

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