政府が掲げる2030年までにCO2を46%削減。企業への影響と指針予測
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武井利明
武井利明
住宅メーカーに約20年営業職で勤務。現在は住宅関係をはじめ不動産投資、太陽光発電、環境問題、SDGs、脱炭素など幅広いテーマを執筆するライターとして活動。また人気動画サイトの台本作成も手がける。丁寧にリサーチを行い、複雑な話題を正確にわかりやすく伝える文章を得意としている。

2021年4月22日に菅義偉首相は地球温暖化対策本部において、2030年度までの温室効果ガス削減目標を引き上げ2013年度比で46%削減すると発表しました。これまでの削減目標である26%から20%もの大きな上乗せです。

果たして20%の上乗せ分は、どの業界にどのような負担が求められるのでしょうか。今回の記事では今後大きな削減を求められるであろう業界と、そこに属する企業への影響を予測します。

46%の根拠は2050年に向けた直線

菅首相が宣言した46%の根拠はとてもシンプルです。2019年度の達成率から2050年度に目指すカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)まで、まっすぐ線を引くと2030年度は約46%の削減が目標になります。

これまでは関連省庁が各業界とのやり取りを通じて達成できるCO2削減量をまとめ、それを合計する「上積み方式」で目標達成率を決めてきました。しかし、これまでの達成率を線で結び伸ばしていくと、2050年のカーボンニュートラル実現はかなり難しい状況でした。

諸外国がカーボンニュートラル実現に高い目標を掲げる中、日本の目標達成が危うい緩やかな動きに政府は危機感をつのらせたと考えられます。そこで政府は目標を達成するための単純明快なガイドラインを引き、各業界にCO2削減の加速を強く求めたと言えます。

政治主導で目標を決めたことに各業界からの不満は大きいかもしれません。しかし一国の首相が世界に向けて発表したことですから、今後は強引にでもその目標へ向かい動き出すはずです。この動きに素早く柔軟に対応できるかが、今後の企業価値を大きく左右するでしょう。

これまでの削減目標の内訳

これからどの業界でCO2削減増が求められるか考えるために、これまでの26%削減目標はどのような内訳だったか確認しておきましょう。

2016年5月 環境省「地球温暖化対策計画の概要」より

分野2013年度実績2030年排出量の目安
エネルギー起源CO21235927
内訳産業部門429401
業務その他部門279168
家庭部門201122
運輸部門225163
エネルギー転換部門(発電)10173
非エネルギー起源 CO275.970.8
メタン36.031.6
一酸化二窒素22.521.1
代替えフロンなど38.628.9
温室効果ガス吸収源-37.0

単位:百万トンCO2

政府が掲げる2030年までにCO2を46%削減。企業への影響と指針予測
政府が掲げる2030年までにCO2を46%削減。企業への影響と指針予測

新たに上積みされる2つの方向

経済産業省では当初目標の29%から、太陽光発電や風力発電といった「再生可能エネルギー」と各業界の「省エネ」で、39%まで目標を底上げするプランを検討していました。つまり、この2つにはCO2削減の余白が大きいためで、新たな46%実現でも大きなウェイトを占めると予想されます。

再生可能エネルギーのさらなる推進

上記のエネルギー起源CO2の中で大きな課題の1つが、エネルギー転換部門=発電です。現状はCO2排出量の多い火力発電が大勢を占めていますが、46%目標表明後の資源エネルギー庁の資料では、脱炭素電源(再エネ+原発)比率を最大限拡大するとしています。

さらに自民党「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」は、5月14日会合で再エネ比率を2030年に45%以上にすることを提言。他に経済産業省では脱炭素電源比率を6割、再生可能エネルギー比率を3割台後半へと大幅に引き上げる検討をしているとの報道もあります。

資源エネルギー庁の示すこれまでの目標に現在の報道など加味すると、今後の46%削減に向けた電源構成比は以下のようになると予測されます。

2013年度2019年度2030年度
(26%時目標)
2030年度
(新目標予測)
再生可能エネルギー11%18%22〜24%30%台後半
原子力1%6%22〜20%20%台
火力88%76%56%40%程度

企業に求められる対応

46%はわずかでもかき集めて上乗せしなければ達成が難しい目標です。今後はこうした再生可能エネルギー重視の流れに、規模の大小は問わず多くの企業が対応を求められるでしょう。

しかし計画の立案や承認、資金調達に時間のかかる企業では、政府から具体策が示されてから対応するのでは遅過ぎます。例えば低価格化と普及が進む太陽光発電で、自社電源を確保するなどの対応策を早急に検討すべきです。

省エネルギーの深堀りが見込まれる4分野

CO2排出割合の大きい「エネルギー起源CO2(燃料の燃焼や供給された電気の使用で排出されるCO2)」では、さらに削減の余地がないか省エネの深堀りが行われるはずです。またCO2削減技術の開発や普及も求められるでしょう。中でも次の4分野に力が注がれると考えられます。

1.家庭からのCO2排出抑制

家庭からのCO2排出量は想像以上に多く、さらなる省エネ対象としてテコ入れされる可能性が高い業界です。具体策はエコキュートやIHコンロなどを導入したオール電化住宅の促進、ZEH、ZEBの普及などが考えられます。

住宅への省エネ対策は国民の理解が得やすく、補助金の新設や拡充がしやすい分野です。今後は冒頭の再生可能エネルギー拡大も兼ね、一般家庭に設置する太陽光発電に対する国の補助金復活が待たれます。

2.自動車排気ガスの削減

自動車の排気ガス削減は排出量の多さからも優先的に取り組むべきです。乗用車はもちろんトラックやバスなどのEV車種拡充、設備インフラ整備や設置コストの低減、充電時間の短縮や次世代蓄電池の開発などが課題です。こうした分野への公的助成や投融資が集まる可能性は高いでしょう。

3.産業用インバータの普及

インバータはさまざまな機器のファンやポンプを動かすモーターの回転数を抑制する装置で、エネルギー消費量の削減を実現します。エネルギーコスト削減の流れから出荷台数は増加傾向にあり、制御技術の向上で応用範囲も広がっています。

今後は多くの分野で省エネが求められるため、さらなるインバータの需要拡大が期待できます。

4.低炭素工業炉の導入

工業炉は加熱により材料や製品の加工・処理を行う設備で、日本で使用されるエネルギーの18%が工業炉で消費されると言われています。しかし近年は、従来に比べ大きく省エネ化と低炭素化を実現させた低炭素工業炉が普及しつつあります。

これまで初期費用の高さや認知度の低さから導入が遅れていましたが、省エネ法による規制や導入支援などにより普及が拡大。2019年度の進捗率は標準目標の38.9%を上回る47.3%と堅調です。そのため、今後さらなる政策支援と省エネへの貢献が見込まれます。

生産量が縮小する鉄鋼業

今後CO2削減が加速する中で、規模が縮小すると予想される分野もあります。中でも鉄鋼業は製造業の中でCO2排出量、エネルギー消費量ともに突出しており、しかも構造的にCO2削減が難しい分野とされてきました。

しかし、近年は人口減少や国際競争の激化などで国内設備の集約化が進み、今後は粗鉄生産量自体が縮小していくと推測されています。関連企業は大胆で明確なCO2削減や、再生可能エネルギーの活用などが存続の条件となりそうです。

CO2削減に無関心な企業は取り残される

今後は46%という高い目標に向かい、あらゆる業界においてわずかでもCO2削減の上積みをするよう厳しく求められるでしょう。政府では企業にCO2排出量に応じた費用負担を求める、カーボンプライシング制度導入の議論も始まっています。

また大手メーカーがサプライチェーン全体に、CO2削減や再生可能エネルギー導入を求める動きも広がるはずです。さらに石炭火力発電所への投融資撤退を表明した国内3大銀行のように、CO2削減への取り組みが希薄な企業への投融資を控える金融機関も増えていくでしょう。

もはや国内のどの企業においても、再生可能エネルギーや省エネ設備の導入の是非を議論している段階ではありません。目標期限の2030年までわずか数年しかなく、他の企業の対応を様子見などしていればまたたく間に取り残されてしまいます。

CO2削減への取り組みがチャンスに

しかしCO2削減に向けて再生可能エネルギーや省エネ設備を早期に導入すれば、企業価値を上げることも可能です。特にCO2削減に対する動きの鈍い業界であれば、その中で一歩前に出た存在になるチャンスになります。

今回の決定をまずは大きな企業がやることと待ちの姿勢でいるか、それともビジネスチャンスと捉え攻めの姿勢で取り組むかで、今後企業間に大きな差が生まれることになるでしょう。

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