非常用電源の目安「72時間」の嘘。大規模停電に企業はどう挑むべきか
(画像=rottenman/stock.adobe.com)
本間貴志
本間貴志
ビジネス書・実用書専門の「アスラン編集スタジオ」の編集ライターを経てフリー。2015年より秋田県に移住、テレワークによる柔軟な働き方を実践中。

台風や地震による大規模停電の対策として、非常用電源を設置する企業や自治体が増えています。

この非常用電源の電力供給の目安は「72時間」といわれますが、企業活動の観点でいえばこれではまったく足りません。なぜ、72時間を目安にしてはいけないのか、どのように非常用電源を準備すべきかを解説します。

台風・豪雨・地震…大規模停電のリスクが極限まで高まっている

大規模停電のリスクが高まっています。過去最大級といわれる大型台風や豪雨が毎年のように襲来する中、全国各地で大規模停電が頻発しています。「送電塔や電柱を経由して電力を供給する日本のシステムは災害に弱い」といわれてきましたが、それが明るみになってきています。

記憶に新しいところでは、千葉県に深刻な被害を及ぼした2019年9月の台風15号(千葉市で観測された最大瞬間風速57.5メートル)では送電塔が倒壊。90万戸を超える大規模停電が発生しました。

さらに首都直下型地震や南海トラフ地震が起これば、大規模停電は避けられません。2020年末〜2021年初頭に日本海側を襲ったような局地的な大雪も大規模停電のリスクです。この他、大手電力会社が送配電設備に予算を割けなくなったため設備が弱体化、それが被害を大きくしているとの意見もあります。

このような環境変化に対応するため、非常用電源の準備を本気で考える企業や自治体が増えているのです。

非常用電源の目安は「72時間」がスタンダードだが……

非常用電源を準備するときの重要テーマが、「どれくらいの期間、電力を提供できる仕組みをつくるべきか」ということです。これについては、民間・公共ともに、「72時間供給できる非常用電源」を目標にするケースが目立ちます。

一例では、地上15階・地下2階の最新ビル、日本生命本店東館では大規模停電が起きても「72時間電力が提供できる非常用電源」を備えています(ただし電力量は通常時の3分の1)。

また、東京都・東久留米市の市役所庁舎では、2023年から非常用電源としてEV(電気自動車)の蓄電池を利用する予定ですが、「電力を72時間供給できる」仕組みを目指しています。

「72時間の非常用電源を準備する」というのは、日本の災害対策のスタンダードといえるでしょう。

命を守る観点だと、非常用電源の目安は72時間になる

日本で「非常用電源の目安は72時間」といわれている根拠は2つあります。

1つ目の根拠は、人間が食物や水を摂取せずに生きられるリミットが3日(72時間)程度であること。2つ目の根拠は、阪神淡路大震災や東日本大震災の救出者のうち、3日目以降に救出された人たちの生存確率が低かったことです。

これらのことから、「(ライフラインである)非常用電源の目安は72時間」という考え方が固定化しました。つまり、非常用電源の目安が72時間というのは、「人間の生命を守ること」にフォーカスした考え方なのです。

企業活動の観点だと、非常用電源の目安は「1〜2週間」に設定すべき

ここで注意したいのは、企業が「大規模停電の対策として非常用電源を準備する」という観点だと72時間では足りないということです。なぜなら、災害で大規模停電が発生したとき、電力復旧に1〜2週間かかっているケースが大半だからです。

もし企業が「72時間」を目安に非常用電源を用意すれば、大災害が発生したときに長期にわたって機能不全に陥るリスクがあります。

では、どれくらいの期間を目安に非常用電源を考えればよいのでしょうか。これについては大規模停電につながった災害事例(下記の表参照)をもとにすると、「1〜2週間が目安」になります。

発生時期原因電力の復旧期間
2011年3月東日本大震災約8日間
2018年6〜7月西日本豪雨約1週間
2018年9月北海道胆振東部地震約2日間
2019年9月台風15号約2週間

実際に72時間にこだわらず、それ以上の期間に渡って電力確保に努める自治体や企業もあります。日本経済新聞が2019年に実施した1741全市区町村の調査では、「1週間以上にわたって非常用電源が稼働できる」と答えている自治体が全体の3%あります。

また、先に紹介した日本生命本店東館では、非常用電源とは別に蓄電池(リチウムイオン電池)も備えられています。

複数の種類の非常用電源をベストミックスさせるのが効果的

次に、災害対策として「電力を1〜2週間供給できる非常用電源をどう実現すればよいか」を考えます。一口に、非常用電源といっても、下記のようにいくつかの選択肢があります。それぞれメリット・デメリットがあるため、ベストミックスさせるのが賢明です。

種類メリットデメリット
ディーゼル発電機燃料のコストが安い排気ガスと振動が出る
ガソリン発電機持ち運べる小型が主流災害時に燃料を調達しにくい
LPガス発電機燃料を長期間保管できる上記2種よりも燃費が悪い
蓄電池用途に合わせて選択できる大容量電気の供給に向かない
EV(電気自動車)移動手段の機能もある購入コストが高い
太陽光発電システム長期間の電力供給が可能初期費用がかかる

基本的な考え方としては、小回りの効く燃料タイプの発電機(ディーゼル、ガソリン、LPガス)はマストです。蓄電池は従業員がノートパソコンやスマホの充電をするのに向いています。これにより、最低限の通信手段を確保できます。また、社用車を所有・リースする企業はEVに入れ替えて非常用電源を強化するとよいでしょう。

自社のビル・工場・倉庫などを所有する企業は、脱炭素を進めながら非常用電源を備えられる太陽光発電システムの導入がオススメです。太陽光発電の導入でハードルになるのは導入コストですが、PPAモデルを採用すれば初期費用を0円に抑えられます。

東日本大震災では非常用発電機が作動せず被害が拡大した面も

補足すると、非常用電源は設置して終わりではありません。長期的かつ定期的な検査がとても重要です。「そんなの当たり前ではないか」と思われるかもしれませんが、東日本大震災では、各種施設に設置が義務づけられている非常用発電機のうち、全体の約4割が整備不良で作動しませんでした。

非常用電源の定期検査体制を万全にするには、下記に挙げるような対策が有効です。

  • 綿密な検査計画表を作成する
  • 検査責任者を明確にする
  • 外注に丸投げしない
  • 検査予算を十分確保する

災害対策は「やり過ぎ」くらいがちょうどいい

非常用電源に限らず、企業や自治体が災害対策を進めるにあたっては、「これまでの常識を疑うこと」を意識してください。具体的には下記の項目をチェックした上で施策を進めましょう。

  • その常識の根拠となっているファクトは何か
  • その常識は自社の状況にも当てはまるか
  • 時代の変化によってファクトが変わっていないか

常識自体が間違っている、あるいは常識の前提が変わっているなら、いざ災害が発生したときに「こんなはずではなかった」という結果になります。それにより、失った信頼や利益を取り戻すのには相当な期間を要します。

もうひとつ意識したいのは、「災害対策にやり過ぎの失敗はないこと」です。本稿では「非常用電源の目安を1〜2週間」と提言しました。

しかし、それを鵜呑みにするのではなく、「1〜2ヵ月耐えられる非常用電源の仕組みをつくれないか」「自社だけではなく地域住民の電力もまかなえないか」など発想を広げていただきたいと思います。周囲から「やり過ぎ」といわれるくらいの災害対策を進めてください。

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