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政府が進めるグリーン成長戦略とは?産業構造の転換と経済成長は実現できるのか

  • ESG投資
政府が進めるグリーン成長戦略とは?産業構造の転換と経済成長は実現できるのか

政府は2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)宣言を受け、グリーン成長戦略を打ち出しています。太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーを積極的に導入することにより、環境を保護しながら産業構造の転換と経済成長を実現しようとする政策です。ただ、実現に向けては、さまざまな厚い壁を乗り越えなければなりません。

グリーン成長戦略とは

政府の成長戦略会議が2021年にまとめたグリーン成長戦略は、再エネを最大限取り入れてカーボンニュートラルを実現するとともに、産業構造の大転換で経済成長を目指しています。その内容と背景から見ていきましょう。

14の重点分野に実行計画

グリーン成長戦略は、成長が期待できる14の産業分野を選び、課題や工程表を盛り込んだ実行計画を打ち出しました。策定に当たっては経済産業省の総合資源エネルギー調査会での議論を踏まえ、環境省や国土交通省、農林水産省など関係省庁の意見を加えています。

2050年の国内電力需要を現状より30~50%増の1.3兆~1.5兆キロワット時と試算し、そのうちの50~60%を再エネ、30~40%を原子力と二酸化炭素回収を前提とした火力の2つ、残りを水素・アンモニア発電でまかなうとしています。

背景にカーボンニュートラル宣言

グリーン成長戦略策定の背景にあるのは、2020年に当時の菅義偉首相が打ち出した2050年までに実現をめざすカーボンニュートラル宣言です。これを実現するための具体的な戦略であると同時に、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みで産業構造の大転換を余儀なくされることを新たな経済成長のきっかけにする狙いを持っています。

日本は20世紀末、再エネ分野のトップランナーでした。しかし、長い経済停滞のなかで世界から立ち遅れ、二酸化炭素を大量に排出する石炭火力発電の輸出を進めて欧米諸国や環境保護団体などから批判されてきました。それをばん回し、再び環境先進国を目指そうとしているわけです。

→43_「カーボンニュートラルとは」の記事へリンク

再エネ主役のエネルギー計画も

グリーン成長戦略策定を受けた動きも政府内に出てきました。経済産業省が2021年にまとめたエネルギー基本計画の改定案です。再エネを初めて主役に位置づけた内容で、2030年の全電源に占める再エネの割合を従来の22~24%から36~38%に引き上げました。

WWF(世界自然保護基金)ジャパンが「現実味に乏しく、非常に心もとない」との声明を発表するなど、環境保護団体から総じて厳しい声が上がりました。しかし、日本経済団体連合会や日本商工会議所など経済界からはおおむね前向きな評価を得て、エネルギー基本計画の改定が閣議決定されました。

エネルギー産業に大変革

石油や天然ガスなど化石燃料中心のエネルギー産業が再エネ主体に変われば、産業構造も大きく変化します。グリーン成長戦略では具体的にどのような目標を掲げているのでしょうか。

洋上風力を基幹発電に

主力電源として大きく育てようとしているのが洋上風力発電です。2030年までに1,000万キロワット、2040年までに3,000万~4,500万キロワットの導入目標を掲げ、国内外の投資を呼び込む方針です。

洋上風力先進地の欧州に比べ、日本は遠浅で一定の風が吹く区域が少ないことが弱点ですが、経済産業省と国土交通省は2022年9月、再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電の促進区域として長崎県西海市の江島沖、新潟県村上市と胎内市沖、秋田県男鹿市と潟上市、秋田市沖を指定しました。

次世代型太陽光発電を普及へ

太陽光発電は2030年をめどに高効率で発電コストを抑えた次世代型を普及へ移す方針です。従来型の太陽光発電が設置できなかった建築物や、商業施設、住宅の壁面への設置可能な設備を開発しようとしているのです。

2050年には一般家庭で発電した電力の約3割を自家消費してもらうことを目指しています。さらに、約5兆円といわれる将来の世界市場をより多く日本企業が取り込むことも目標に掲げました。

水素の発電利用も推進

「究極のクリーンエネルギー」と呼ばれる水素の活用も提示しました。国内導入量は2030年で最大300万トン、2050年で2,000万トン程度としています。火力発電の燃料とするほか、自動車の燃料にも使う方針です。

発電用燃料としてのコストは2050年でガス火力に見劣りしない水準まで引き下げると意欲的な取り組みを示しました。

社会に再エネを浸透

発電燃料の転換だけでなく、社会に再エネを浸透させるための取り組みも、グリーン成長戦略に盛り込まれました。主なものをまとめてみます。

2035年までに新車販売を100%電動車に

自動車の脱炭素化は最も力を入れていることの一つです。このうち、乗用車は2035年までに新車販売を100%電動車に限定するとしています。ここでいう電動車は、電気自動車、燃料電池車、ハイブリッド車などを指します。

トラックなど商用車は2040年までに電動車と二酸化炭素と水素による合成燃料「イーフューエル」車100%を目指します。さらに、車載用の大型蓄電池開発にも力を入れるとしています。

省エネ基準適合の住宅建築を促進

住宅に対しては、省エネ基準適合率の向上を目指して義務化措置を含めた規制強化を検討するとしました。既存住宅については省エネリフォームの推進や省エネ性能の向上を図る不動産事業への投資促進策を進めます。

→63_「グリーンビルディング」の記事へリンク

植物由来のバイオプラスチック導入へ

資源循環関連産業の育成にも力を注ぎます。多くの分野で使用されているプラスチックは石油が原料です。これを植物由来のバイオプラスチックに転換することで、新産業を育てるわけです。2030年には200万トンを国内に導入する計画です。

達成に向けて横たわる厚い壁

政府としてはかなり大胆な内容の目標を打ち出していますが、実現するとなると多くの課題を乗り越えなければなりません。

水素ステーション普及は低迷

グリーン成長戦略では、燃料電池車に水素を補給するステーションの数を2022年5月現在156基の6倍に当たる1,000基程度整備するとしました。しかし、燃料電池車は電気自動車に押されて普及が進まず、整備は遅々として進んでいません。

燃料電池車はトヨタ自動車と本田技研工業が世界に先駆けて開発しましたが、シェアのトップを韓国の現代自動車に奪われています。国内で普及が進まなければ、水素ステーション設置が停滞し、余計に普及が遅れるという負のスパイラルに陥りかねないのが現状です。

五里霧中の新技術開発

アンモニアやイーフューエルという新燃料はまだ、研究段階を出ていません。実用化に向けて前進したとしても、サプライチェーンの確立など課題が山積しています。政府は2兆円規模の基金創設などで開発を支援する方針ですが、目標が達成できるかどうかは五里霧中です。

どう下げる再エネコスト

世界の主要国で突出して高い再エネコストの引き下げも緊急課題です。例えば、出力10キロワット以上の産業用太陽光の発電コストを2019年で日本、中国、インド、ドイツ、韓国と比較しても、日本以外の5カ国が1キロワット時当たり0.1米ドルを下回っているのに対し、日本だけが0.15米ドル前後にとどまっています。

雨が多く、適地が少ないという地理的な問題だけでなく、日本的な商慣習もコスト高の原因と指摘されています。これを克服するのは簡単でありません。

グリーン成長戦略を日本経済復興の起爆剤に

日本は1973年のオイルショックを経験したのち、積極的に持続可能でクリーンなエネルギー活用の技術開発を進めてきましたが、長い経済の低迷が続くなか、見る影もなく衰退してしまいました。しかし、再エネが基軸となる近未来の世界は産業構造が様変わりします。日本経済が再び世界のトップへ返り咲く大きなチャンスが来ているのです。